セフィロス様の生涯で最悪な日々
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 セフィロス
 

  

「なんだか、おまえ、ずいぶんとものわかりがいいな」

 ジェネシスにそう言った。

「いや、それは……まぁ、この腕を見せてもらえば?それにこっちのふたりが真剣にそう言うんだから本当のことだろうって」

 と言って、ヴィンセントとヤズーを振り返った。

「……銀髪のガキふたりには内緒だ。胸さえ締め付けておけば、なんとかやり過ごせるのではないかと思う」

「そうだねぇ、服装にやや違和感はあるけど、わざわざ指摘するほどのことではないし。あのふたりなら大丈夫かな」

 とジェネシスがヤズーにつられるように笑った。

「それより、セフィロス、人にどう見られるかばかりを気にしている場合じゃないぞ」

「……あ?」

「夜中に酒を飲みに出掛けたり、ひとりでふらふら遅くまで出歩くのは控えろよ」

 妙に神妙なツラでジェネシスが言った。

「なんだ、そいつァ」

「言葉どおりだよ。今は女の人と変わらないんだからな、万一のことがあったら大変だ」

「なッ……!テメェ、誰に向かって言ってやがるッ!」

 思わず胸ぐらを掴み上げたのだが……なんとその腕は、いともたやすくジェネシスに引き離されてしまった。

 ぐいと乱暴にならない程度の力で引き上げられ、そっと指を外される。

「…………ッ!」

「ね、言っただろう。確かに女性にしては強い力かもしれないけど、やっぱり男の時とは違うんだよ」

「…………」

「どうしたの、セフィロス。ああ、ごめん、痛かった?」

「ウソだ……」

「え?」

「こ、このオレが……!」

 信じられなかった。このオレの渾身の力が、ジェネシスの腕一つで引き留められて、あろうことかまるで女にするように、こんなふうに指を外されるとは。

 生まれてこの方、一度も……そうまさしく一度たりとも味わったことのない屈辱であった。

 

 

 

 

 

 

「信じらんない。セフィの腕が……」

 クラウドが唖然とした表情でそうつぶやいた。

「ああ、そうか、ごめんよ。そんなつもりではなくて……ただ、現実的に力が弱くなっているのは当然のことで……だから、危険な場所や、遅い時間には気を付けて欲しいと言っているんだ。背は高いけど、おまえは十分綺麗だからね」

「ふざけんな、このヤロ!放せ!」

 そう言ってオレは、乱暴にジェネシスの腕を払いのけた。

「くそっ……馬鹿な……このオレが……」

「セ、セフィロス……だ、大丈夫だ。今だけのことなのだから」

 ヴィンセントのなぐさめ声も耳に入らない。

「なんてこった……人生でワースト3には入る……このオレが腕を取られるなんて……!」

「だから、ごめんよ、乱暴にするつもりはなかったんだ」

「黙れ!あやまるな!クソッ……よけいにみじめな気分になる。オレは部屋に戻る。誰も入ってくるな!」

 そう言ってオレは踵を返した。

「あ、セフィロス!ま、待って……」

「ヴィンセント、大丈夫だよ。ちょっと疲れてるだけだ。ひとりにしてあげよう」

 イロケムシとヴィンセントとのやり取りが聞こえてくるが、もはやそんなものにかまっているだけの余裕はなくなっていた。

 

 大股で部屋まで戻り、ベッドに転がる。サイドテーブルに置きっぱなしの、筋トレ用のダンベルを片手で持ち上げようとするが、それができなくて愕然とした。やはり確実に力が落ちているのだ。

 同じ身長、中身は男のままといっても、筋力や体力は確実に劣っている。

「ああ、クソッ!」

 どうか、一日も早く元に戻ってくれ。

 身体がというよりも、精神が保ちそうにない。

 ジェネシスの言葉ではないが、夜中に遊びに出掛けようなどと言う気分にさえなりはしない。とにかく人目に付きたくない。正直、家の連中に見られるのも我慢しがたい気分になっていた。

 そして、この日の翌日、オレは人生における最悪の経験をすることになる。