Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<1>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

「あーもうね、大丈夫。この程度のことじゃ驚かないから」

 と、ヤズー。

「だよな、俺も。もうなんか我が家的には慣れっこですよね! イベント的に!」

 と、俺こと戸主・クラウド。

「だが、めんどくせーだろ!? 疲れるんだよ、毎回毎回! あの家、なんか呪われてんじゃねーの!? このまま住み続けていいのかよ!?」

 乱暴な意見は、もちろんセフィロス。

「い、いや、でも、セフィロス。あそこは私たち家族の大切な家で……」

 と、ヴィンセントが取りなす。

「大切もクソも、何度も何度もこんな珍事に見舞われてたら、身体と精神がもたねーだろうが!」

「セフィの身体と精神ならビクともしないんじゃねーの?」

「だまれ、このアホチョコボ!」

「……でも、ここ……見たこと無いくらい、綺麗なところだよね」

「うん、ロッズ。せっかくだからヴィンちゃんも連れて来てあげたかったね」

 という、やや場違いな発言は、ロッズとカダージュだった。

 目の前には、青々とした森林が広がっている。

『森林』とはいっても、この前の大雪でトラウマになったような、断崖絶壁混じりの、野性的な森!って感じはなく、お化けが出てきそうな『鬱蒼とした』森でもない。

 しなやかな若木は、適度な間隔で生い茂っている。

 さわやかな陽の光が、薄いグリーンに色づいて大地に降り注ぐ。こんな状況でなければ、是非とも一度、家族旅行で来てみたいような場所だった。

 あ、やっぱ、家族旅行じゃなくて、ヴィンセントとふたりきりの旅行で。

 

 大雪騒動が無事済んで、おじゃま虫ジェネシスも自宅に戻り、支配人さんのお店もつつがなく営業できるようになった。

 セフィロスの足も、あっという間に回復し(バケモノか!というスピードで)、俺たちはふたたび、穏やかな日常生活に戻った。

 ……と、思った矢先だったのに!!

 

 目の前に広がる、まるで童話から抜き出したような、メルヘンな世界。

 これは以前にも体験したことがある。

 ……そう、シンデレラちゃんの世界に迷い込んだときと同じ感覚だ。俺たち家族は誰一人欠けることなくここにいるのに、世界のほうが変わってしまっている。

 ここは、あの常夏の海岸ではない。

 

 

 

 

 

 

「……なんか既視感があるよね。これって。今度はなんの世界だろ……」

 察しのいいヤズーが、ため息混じりにそうつぶやいた。

「前の小娘のときと同じ状況か? また例の童話とやらがかかわっているのか!? 家に戻ったら全部捨てろよ!」

「小娘って……シンデレラちゃんでしょ。そうだねェ、確かにこの手の現象は、あの童話集を手に入れてからだけど……」

「ヤズー……捨てなきゃダメ? だって、あの本、とっても不思議なんだよ? レオンたちの気配みたいなのも感じるし……」

 グズグズと半泣きで、カダージュが訊ねる。カダは買ってもらったばかりの童話集をとても気に入っているのだ。

 毎晩、それらのうち、どれか一冊を取りだして読むのが日課になっているとヤズーが言っていた。

「もしかしたら、いつかまたレオンたちに逢えるかも知れないよ? ねぇ、ヤズー……」

「捨てろッ!」

 と、叫ぶのは大人げない英雄である。

「まぁまぁ、セフィロス。カダも落ち着いて。今はとりあえず目先の問題からかたづけていこうよ。この前の一件で免疫はついているし、物語のスジにそって行動すれば、元の世界に戻れるのは間違いないんだし」

「そんなのわかんねーだろうが!! 前回、何事もなく済んだのは、たまたま運が良かっただけかもしんねーだろッ!」

「……なんかセフィ、ずいぶん悲観的になってない? 弱気っつーかさ。……この前から」

 思わず俺はそう言った。

 この前というのは、例の大雪事件である。

 彼にとっては、いかなる理由があろうとも、ジェネシスに背負われたのは精神的ダメージだったのだろう。なんせ、神羅時代のセフィロスは、猛烈な意地っ張りだったから。

「そうそう、なんかこの前の怪我のときから、ずっとナーバスだよね〜」

 このときとばかりに、ヤズーも口を揃える。

「あぁ!? なんだと、テメーら、オレ様をバカにしやがるか! このオレのどこが……」

「ま、待ちたまえ、セフィロス。ふ、ふたりは君の身を案じているんだ。我々のためにあんな怪我までしてしまったのだから…… 決して君のことをバカになど……!」

 すぐにでもパンチが飛ばしてきそうセフィロスの腕に、必死にしがみつくヴィンセント。

 なにもそこまでしなくても。別に俺はセフィのことをバカになんかしていないし、ただちょっとナーバスだよな〜って思っただけなんだから。

 助けてもらった俺としては、セフィに感謝もしているし、申し訳なくも思っているのだから。

「まぁ、ここで騒いでても仕方ないでしょ。……とりあえず、状況把握から行こうか。まずはこの世界が『何なのか』知らなくちゃね」

 ヤズーが大きなため息をついてそうつぶやいた。

 童話の中の世界……とはいっても、シンデレラちゃんのときのように、登場人物が目の前にいるわけではない。あのときは、貴族の屋敷で目が覚めたのだが、今は深々とした森にいるのである。

 人っ子一人いないこの状況に、ため息のひとつでも出ようというものだった。