〜 Amusement park recreation 〜
〜神羅カンパニー・シリーズ〜
<1>
 
 セフィロス
 

 

 



 

 

12:30

 

「そっかァ、でも仕方ないよね」

 クラウドは、ホヨホヨと跳ねた金色の髪を、クッタリと寝かせて残念そうにつぶやいた。

「いや、待てクラウド。明日中に上手い具合に会議が終われば……」

「あー、それ、無理。あり得ねーって」

 ヒラヒラと片手を振って、カンタンに流しやがったのはザックスだ。こいつはオレ……私と同じソルジャーで、不快なことにクラウドと同室の男だ。

 普段から一緒に居られるくせに、こうして昼飯にまでくっついてきて、私とクラウドの大切な語らいの時間を邪魔しくさる。

 ギッと音がするほど睨み付けてやるが、図太いゴンガガ原人は悪びれもしない。

「もともとの日程が二日なんだからさ〜、セフィロス」

 と、あっさり流してくれる。

「だまれ!不愉快な!」

「怒っても仕方ないだろ。ずいぶん前に通知来てたし」

「……だいたいあんな会議なんぞ、無意味なんだ! 上層部のクソバカバカしい連中の……」

「アンタだって、立派に上層部に入っちゃうんじゃねーの?」

「ふざけるな! 私は……」

「ああ、もう、やめてよ、ふたりとも。仕方ないよ、セフィは大事なお仕事なんだもん」

 残念そうに、眉を八の字にしながら、私の可愛いクラウドは小首を傾げた。

 この子はようやく一般兵になった少年で、ツンと尖ったチョコボのような金髪、ピンクがかった白い肌。大きな海の色の瞳がすこぶる愛らしいのだ。

 やや小柄なのがコンプレックスらしいが、むしろ私にとってはチャームポイントに加えられ、何の問題もない。

「クラウド…… だが、せっかくの休暇なのに……」

 気丈に振る舞う彼に、私はこの上なくやさしく声を掛けた。だがまたもや割り込んできたのは、くそザックスだ。

「あ、平気平気。俺はその日休みだから。クラウドと一緒に出掛けられるし」

「うん……そうだね。ホントは三人で一緒に行きたかったのになァ」

 溜め息まじりにつぶやくと、菓子の懸賞で当たったという遊園地のチケットを眺めた。

 この子はニブルヘルムという片田舎の村の出身で、彼の話によると周囲にレジャー施設などは皆無だったらしい。そのせいか、ふたりきりのデートでも、自然が多いところよりも、人工的な行楽地へ行きたがる傾向が強い。

 以前、近隣施設のアクアパークに連れていってやったときも、最初はうずうずとハシャギたいのをこらえていたが、仕舞いには私の手を引っ張って、あちこち走り回ったものだ。

 なかなか帰りたがらないクラウドに、こっそり近くのリゾートホテルを取ってやった。よこしまな思惑に満ちた私の腹など読めず、遅くまでその日の興奮を語り、ふところで眠り込んだ姿が食べてしまいたいほど愛らしかったものだ……

 

 

 

13:00

 

「おい、セフィロス。アンタ、何しみじみしてんだよ。どうせ、またヤラシイことでも……」

 ゴッ!

 ふとどきな発言をする黒いハリネズミ頭を殴りつけ、その拍子に現実に引き戻された。

 

「あ、いけない! 午後の仕事、始まっちゃう!」

 真面目なクラウドは、急いでパンの残りを口に放り込み、むごむごと咀嚼した。

 そんな子供っぽい仕草が……ハムスターみたいでなんと愛らしいのだろうか……

 

 ……萌え。

 

「クラウド、午後はどんな予定なんだ?」

 口元についたソースをナプキンで拭ってやりながら、そう訊ねた。

 クラウドは私が彼の任務について気に掛けているのが嬉しいらしいのだ。だからこうして仕事の話をよく聞くようにしてやっている。

「うん。今日は事件書庫の資料整理だって」

「そっか、じゃ、きっと上がり早えーな。たまには外にメシ食いに行くか、クラウド」

 無神経きわまりない黒ハリネズミを、椅子ごと足蹴りにする。

「何すんだよ、アンタは、夜、副社長らと会食なんだろ?」

 テーブルにぶつけた顎をさすりながらザックスが言った。

「あ……そう、なんだ」

 クラウドが少しがっかりした様子でつぶやく。きっとこの子はザックスなどとではなく、恋人であり、保護者をも自任しているこの私と、優雅な夕食の時を過ごしたかったに違いないのだ。

「セフィはすごく忙しいんだね。……あ、あたりまえだよね、『英雄』なんだから」

「くだらん会食など断ってもかまわんのだ。私はおまえと一緒に居るときが一番……」

「ダ、ダメ!ダメだよ、そんなこと言っちゃ!」

 クラウドは慌てて、私の文句を遮った。ここは社員食堂なので、周囲を憚ったのかも知れない。

 

 

 

13:10

 

 わずかな間隙の後、クラウドがぽつりと言った。

「副社長さんって、きっとセフィのこと、とっても大切に思ってるんだろうね。そんで頼りにしてるんだと思うよ」

「は? どういうことだ、クラウド?」

「たぶん、神羅の副社長って立場からだけの好意じゃなくて……」

「クラウド?」

「セフィ……副社長さんに大切にされるのって、すごいよ…… いずれはルーファウス副社長が社長さんになるんだろうから……」

「ケッ、あんなくそ生意気な小僧!」

 クソバカバカしい。鼻で笑ってやる。

「セ、セフィってば。そんなこと言っちゃ……」

「おまえと同じ金髪に碧眼の男だがな。まったく似ても似つかないぞ、クラウド。耳年増でワガママで、お高く止まっている鼻持ちならない人物だ」

 私の険悪な物言いに、クラウドよりはルーファウスをよく知っているザックスが、堪えきれず吹き出した。

「そ、そうなの……? おれ……ほとんど話したことなんてないから……」

「それでいい。おまえみたいな素直で可愛い子が、ヤツの側に寄るのは好ましくない。悪しき影響を受けては取り返しがつかなくなる」

「おいおい、セフィロス、そこまで言う〜? まぁ、それなりに同意はできるけどよ」

 ゲラゲラと下品に腹を抱えて、ザックスが笑った。