テンペスト
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<1>
 
 セフィロス
 

 

 

 うだるような昼過ぎ、末のガキが玄関の扉を叩き付けて、ドタバタと居間に飛び込んできた。

 身長はクラウドとたいして変らないが、動作は輪を掛けて幼い。もっともこの世に生まれ出でてから一年あまりということを考えれば、致し方ないのかも知れないが。

 

「たっ、ただいま! ねぇねぇ、ヴィンセント! ぼく、これ行きたい! ねぇ、いいでしょ!?」

 キッチンで茶器の用意をしていたヴィンセントに、飛びついてねだる。

 いったい今度はなんのことやら。

 興味のないオレは、ソファに寝そべりながら、雑誌を眺めていた。今日の新聞はもう読み終えていたからだ。

 

「ねぇねぇ、ヴィンセントってば!」

「ああ、真っ赤な顔をして、よほど外が暑かったのだろう?まずは座りなさい……ほら、冷たい麦茶があるから、それを飲んで落ち着いて話すといい」

「う、うん!」

 よほど喉が渇いていたのだろう、手に何やらパンフレットのようなものを握りしめながらも、カダージュのガキは、差し出された麦茶のグラスを、ごくごくと一気に空けた。

 

「あぁ、カダ、帰ってきたのか。今日は午前から暑かったからな。熱射病にならないように、ちゃんと水分を摂っていたか?」

 昼過ぎだが、からからに渇いてしまった洗濯物を取り込み終えたのだろう。ヤズーが大きなバスケットを抱えて居間に戻ってきた。

「あ、ねぇ、ヤズーも見て見て!」

「なんだ、慌ただしい。ああ、ほら、ちゃんと汗を拭かないと、クーラーで風邪をひくぞ」

 末の弟にはどこまでも甘いヤズーが、取り込んできたばかりのタオルを差し出す。とはいっても、自分で拭わせるのではなく、ふいてやっているのだ。

「ふふ、それがヤズー、何かおねだりらしい。帰ってくるなり慌ただしく、このパンフレットを見せてくれて……なになに?サマースクール?」

 ヴィンセントがテーブルの上に置かれた、白いパンフレットを取り上げた。カダージュが握りしめて持ってきたものである。

「そう!表通りのマリアちゃんもソフィアちゃんも行くんだって!これ、ドラッグストアでもらってきたんだよ!」

 二杯目の麦茶もそこそこに、カダージュが咳き込んでそう言った。

 

 

 

 

 

 

「なるほど……サマーキャンプなどの体験学習や、ほぅ、バイオ化学技術研究所の見学会なども予定されているのか」

 ヴィンセントが、パンフレットを眺めながら、思いの外興味深そうな声音でそうつぶやいた。

「サマーキャンプ? ガキどもなんざ、ここでの生活でいくらでもキャンプできるだろーが」

 雑誌のページを手繰りながら、オレは言った。きっとどうでも良さそうな声に聞こえたのだろう。カダージュが不満げに鼻を鳴らして、

「だって、キャンプは十人一組でやるんだよ!そんな大人数でなんて、ウチじゃできやしないじゃないか!」

 と口答えしてきた。

「ふふ、確かにそうだな。ええと……ああ、申し込みの〆切が近いのだな。カダージュはこれに参加したいのか?」

 ヴィンセントがやさしくそう訊ねる。

「うん!ぼく行きたい!街の友だちも何人か行くんだ!」

 元気よくそう答える。

「ずるいぞ、カダージュばっかり!俺も行きたい」

 とロッズが口を挟む。

「残念でした!キャンプの参加資格は18才までだもん!」

 何故か勝ち誇ったように、末のガキが言う。

「ちょっと待った。それじゃ、カダ、ひとりで参加するつもりなのか?」

 ずっと黙っていたヤズーが、咎めたてるような高い声を上げた。

「大丈夫だよ。みんな一緒だもの」

「だって……十日だぞ、十日も離ればなれになって……」

「ヤズーってば、おおげさだよ〜!場所だって、ミッドガルだから、わりと知ってるところだし、化学技術研究所は神羅の施設でしょ。友だちもいるんだから、全然平気」

「だが……」

 尚も難色を示すイロケムシに、オレは面白くなって茶々を入れた。

「おいおい、過保護にもほどがあるってヤツだろ。たかがガキどもの集まりごとき、好きなだけ行かせりゃいーじゃねーか。その分、ウチが静かになって、せいせいするってモンだぜ」

「セフィロス……また、君はそのような物言いを……」

 メッというふうに、目で叱りつけてくるヴィンセントだが、オレはまったく気にしない。