テンペスト
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<2>
 
 セフィロス
 

 

 

 

「ねぇねぇってば〜!それで、ね?ね?いいでしょ?」

 この家の母親役はヴィンセントだと認識してのことだろう。カダージュはヤツの膝に甘えるように両手ですがった。

「そう……だな。どうだろうか、ヤズー。危険な催しではなさそうだし。ミッドガルなら船も行き来しているしな。そう心配はないと思うのだが」

 イロケムシの気持ちを慮ってのことだろう。ヴィンセントは腕組みしたままのヤズーに声を掛けた。

「……ふぅ、やれやれ。わかったよ。これ以上反対したら、カダに嫌われそうだしな。ただし、今日、兄さんが仕事から帰ってきたら、ちゃんと了解をとるんだぞ」

「やったね!ありがとう、ヴィンセント、ヤズー!ぼく、マリアちゃんたちに言ってくる!」

 飛び跳ねるように身体を起こすと、ヴィンセントとヤズーのふたりにキスをして、末のガキはふたたび外へと飛び出していった。照りつける太陽などものともしない勢いでだ。

 

「はぁー、ガキは元気なもんだな。このクソ暑い最中」

 テーブルの上におかれたアイスティーを一口飲んで、オレは自然とため息を吐いた。

「しまった……帽子をかぶっていくように言うべきだったな」

 ヴィンセントが少し慌てたようにつぶやいた。

「ったくおまえらは、揃いも揃って過保護なんだよ。ガキなんて放っておけば勝手に育つ」

「勝手に育って、あなたみたいなひねくれ者になられても困るのよね」 

 嫌みたっぷりにいうのは、もちろんイロケムシのヤズーである。

「まぁまぁふたりとも。カダージュもここへ来て、そろそろ一年になる。心の成長がうれしいではないか」

 ヴィンセントはそういいながら、おかわりのアイスティーをふるまった。

 

 

 

 

 

                                                             

「よし、着替えは十分持ったな。ハンカチ、ティッシュー……一応、爪切りも入れておこうか」

「ヤズー、もう大丈夫だってば。ヴィンセントととも確認したし」

 時は流れてあっという間に、出発前夜だ。

 もともと、カダージュが、申込用のパンフレットを持ち込んできたのが、〆切りのぎりぎりだったので、サマースクールが始まったのは、それからわずか二週間後であった。

「カダ、生ものには気を付けるんだぞ。ヴィンセントがいるわけじゃないんだから、食べ物には十分火を通して安全を確認してから……」

「わかってるわかってる。明日、早いから、もうお風呂入って寝るね、ヤズー」

 さきほどまで、興奮してしゃべりまくっていた末のガキは、眠気が増してきたのか、あっさりとそういうと、自室に戻っていった。

「カダ、楽しそうだね。まぁ、あの年頃は、同年代の連中とわいわいやれるってだけで、テンション上がるもんだけど」

 まだ食卓についたまま、デザートを食べているクラウドが言った。

「兄さん、同年代って、俺たち、生まれ落ちてから、そんなに時間が経っているわけじゃないんだよ」

「ああ、まぁ、そりゃそうかもしんないけど、おまえとカダージュ比べれば、いわゆる年齢の差みたいなのは感じるじゃん。ヤズーは十分ハタチ越えって言われても納得だけど、カダはどう見てもまだ十代だろ」

「人を年寄りみたいに……」

「別にそういうわけじゃないけど。どうしたの、ヤズー、ずいぶんいらいらしてない?」

 二切れ目のアップルパイを切り分けてもらいながら、クラウドが訊ねた。

 ……どうでもいいが、ずいぶんと大振りのパイを、あれだけ夕食を食った後に食べられるのは、ほとんど特技だと思う。クラウドにとっては甘いものは別腹だということらしいが。

「ああ、ごめん、兄さん。どうしてもカダのことが心配でね。十日も離れるのって初めてだから」

 憂い顔でため息を吐くヤズーは、姿だけ見れば、ずいぶんと儚く美しい天使にも見える。

 ……くどいが、あくまでも姿格好だけの話だ。