テンペスト
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<4>
 
 セフィロス
 

 

 

 

「まだ9時前なのに、部屋にこもっちゃってるの?」

 風呂から上がってきたクラウドが、呆れたようにそう言った。

 ヤズーは夕食を終えた後、デザートも食べずに、早々に部屋に引き取ってしまった。カダージュからの連絡が気になるらしい。

「ああ、昼間に何通かメールが来たんだがな。皆が居る前では落ち着いてやり取りができないらしくて」

 苦笑しながらヴィンセントがそう言った。

「ヤズーの過保護はホント、ハンパないよなぁ。いつもはヴィンセントのことそう言うのに」

「ふふ、大切な弟だからな。それにあの子はヤズーの特別でもある」

「まぁ、そりゃそうだけどさ。でも、ヤズーの過保護遺伝子って、セフィから来てるよね〜」

 ソファで食後の茶を飲んでいたオレに、話を振るクラウドだ。

「なんだそれは。いつオレが……」

「セフィ、すんごい過保護だったよ、昔の俺に。ザックスによく言われたもん」

「……フン。ガキの頃のおまえは今以上に危なっかしかったからな。自然とそばにいる連中が意識していたんだろ。別にオレだけという話じゃない」

 そんなこっちの物言いを、ヴィンセントが微笑ましげに聞いている。

「いいではないか。誰だとて、自分の大切な人間に対しては、過保護になる傾向にあるものだろう」

「ヴィンセントは誰にでも、やさしーからなぁ。もっとこう俺だけにさぁ」

「クラウドのことはいつも心配している。仕事から無事に帰ってくるとホッとするのだ」

 茶のお代わりを注ぎつつ、ヴィンセントが笑った。

「へっへー。そう言われると嬉しいかな。あれ?」

 クラウドのスマートフォンがテーブルの上で震えている。

「誰だろ。名前出てないし。……はい」

 聞くともなしに、耳を傾けていたら、クラウドがどうでもよさそうに相手の名を口にした。

 

 

 

 

 

 

「なんだ、レノか。どうしたの?また面倒ごとだったらゴメンだからね」

 ヴィンセントも手を止めることはないが、聞くともなしに耳にしている様子だ。

「え?なに?カダージュ? ああ、そう。アンタのトコが主催なんだ。俺、初めて知った」

「どうした、クラウド。替わろうか?カダージュのサマースクールの話だろう?」

 ヴィンセントが小声でクラウドに耳打ちする。

「あー、レノ。ヴィンセントが替わろうかって言ってるけど、別にいいだろ。ただの確認の電話なんだし。え?おい、ちょっと馴れ馴れしくすんなよ。ヴィンセントは俺の……」

「クラウド、電話をよこしなさい。……もしもし、レノか。ごきげんよう。久しぶりだ」

 横合いからヴィンセントに電話を奪われて、クラウドがふくれっつらをする。

「なんだ、クラウド。神羅の連中が何を言ってきたんだ」

 オレがそう訊ねると、クラウドは頭を振って答えた。

「別に大した用件じゃないよ。神羅主催のサマースクールに、カダージュが参加しているから驚いたっていう、そんな話。まさか想定外だったんだろ、ウチの連中がいるなんて」

「フン、連中もずいぶんと多角経営のようだな」

「レノたちタークスが、直接関わっているわけじゃないだろうけど、カダ相手じゃやりにくいかもね。あいつ、頭はギガバイト級だもんね。なんでサマースクールなんかに興味をもったんだか」

 飲みかけのジュースをごくごくと飲み干すと、氷を口に含みながらクラウドが言った。

「おおかた、親しく付き合っている街の娘どもが参加するから、一緒に行きたいと言い出したんだろ。しょせん考えることは子どもだ」

「あー、だからヤズーが気が気じゃないわけ?カダって女、子どもや、年寄りにモテるよね」

「一見、無邪気な子どもだからな」

 

「……はい、はい。手数を掛けるかも知れないが、よろしく頼む。本人も純粋にサマースクールを楽しみに出掛けて行ったし。ああ、君も元気で。あまり夜更かしをしたり、酒を過ごしたりせぬよう……ふふ、ありがとう。それではおやすみなさい」

 丁寧に電話を切って、ヴィンセントがクラウドに返した。

「よろしく言っておいた。レノは相変わらずのようだな。話せて懐かしかった」

「懐かしいってほど、昔に会ったワケじゃないでしょー。ったくレノのヤツ、ヴィンセントに馴れ馴れしいんだから」

「そんなふうにいうものではない。ふふ、サマースクールはなかなか充実している様子だ。キャンプに研究所見学、実技工作など、いろいろとあるらしい」

 ヴィンセントが、楽しそうにそう言ったとき、居間にヤズーが戻ってきた。