テンペスト
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<5>
 
 セフィロス
 

 

 

 

「どうした、ヤズー。忘れ物か?」

 ヴィンセントが訊ねると、イロケムシは神妙な顔つきのままかぶりを振った。

「カダから返信が来ないんだ。まだ夜の9時過ぎだというのに……」

「ったく何言ってんの、おまえ!サマースクールに行ってんだぞ。年がら年中スマホとにらめっこしているはずないだろ!」

 さもバカバカしいといったふうに、クラウドが両手を挙げた。

「でも、ずっとやり取りしてたんだよ。途端にぷっつり途絶えるなんて……」

「その……気にしすぎではないのか、ヤズー。号令がかかればメールなど打っている暇はなかろうし、団体行動が基本なのだから」

 ヴィンセントがやわらかな物言いでいさめる。

「そうかな……そうだよね。そういうこともあるよね」

「ヤズー、こちらに来て、落ち着いてお茶でも飲みなさい。そんなに携帯と顔つき合わせていては身体によくない」

「まぁ、おまえもパイでも食えよ。気が落ち着くから」

 クラウドもすすめる。

「夜の9時過ぎに、そんな甘いもの食べられるわけないでしょ。全部カロリーになっちゃう。……そうだね、お茶だけもらおうかな」

 ため息をひとつ吐き出すと、ヤズーは大人しく椅子に腰掛けた。

「カモミールがいいな。そら、ゆっくりと飲むといい」

「ありがと、ヴィンセント」

 イロケムシは差し出された、温かな茶を一口、口に含むと、さらに深いため息を吐いた。

「ふぅ〜……」

 オレたちは申し合わせたわけでもないのに、三人ともヤツの顔を眺めて目線を交わし合った。

 

 

 

 

 

 

「ヤズーってば、こんなんだっけ。おまえってもっとしゃんとしてただろ」

 クラウドがずけずけと言う。

「……そうかな。そうかもね。……最近、よく考えるんだよ」

 そう言って、イロケムシは気怠げに頬杖をついた。

「カダに……友だちが増えただろう?」

「そうだな。あの子は素直な良い子だから、自然と街の皆にも好かれるのだろう」

 ヴィンセントが言った。

「女の子の友人も多いんだ。俺の目から見ても、年相応の娘とよく似合ってる」

「あったりまえじゃん。フツーの男ならそうだろ」

 クラウドが声を大きくした。

「じゃあ、兄さんはヴィンセントが、街中の女の子と仲良くしてても、黙ってみてられるの?何の不安もないの?」

「そ、それは……俺は大丈夫。ヴィンセントのこと信じてるし、ヴィンセントがみんなに好かれてるの知ってるからな」

「ク、クラウド……そんなことはないから。私は別に……」

 慌てたようにヴィンセントが、割って入る。

「残念ながら、俺にはそんな余裕無いよ。……いつ、カダが俺ではなく他の人間に強い好意を抱くようになるんじゃないかって……そればかり考えてしまう」

 ヤズーはそう言うと、言葉を続けた。

「うん、わかってるよ。こんなの鬱陶しいだけだって。カダが聞いたら、重荷に思うだろうって。……だから、本人には言えない。こうして、ヴィンセントたちの前で、弱音を吐くのがせいぜいだ」

 ふぅと深い吐息が漏れた。

 そのとき、イロケムシのスマホが震えた。

 

「あっ!カダからメールだ」

 奪うようにテーブルから拾い上げ、画面を覗き込む。

「風呂の時間だったみたいだ。もう休むらしい」

「じゃあ、もうメールは切り上げて、ヤズーもベッドに入りなさい。……その、あまり考え込んだりしないように。カダージュはおまえのことが大好きなのだから。それに間違いはないのだからな」

 噛んで含めるようなヴィンセントの物言いに、なんとか頷き返してヤズーはスマホを大事そうに抱えたまま、部屋へ引き取っていったのであった。