テンペスト
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<6>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 それから数日が流れた。

 その間も、イロケムシはスマホとにらめっこで、ヴィンセントたちの苦笑をかっていたのだが、本人はまったく気にする様子もなかった。

 

「ああ……あと二日……あさってにはカダが帰ってくるね、ヴィンセント」

 朝食後の茶をのんびり啜りながら、ヤズーはため息を吐いた。

「ふふ、ヤズーにとっては、長い十日間になってしまったな。だが、よく我慢した。えらいぞ」

「やだなぁ。なんだか照れちゃう。でも……カダのメール見てると、軽くショックだよ」

 そんなことを言ってスマホをいじる。

「なにがだ?」

「だって、俺と離れて十日近く経つのに、全然平気そうなんだもの。メールには次にどこに行くとか、今何をしててどんなふうに楽しいかばかり書いてあって、ちっともさびしそうじゃないんだよ。なんだか俺ばかりやきもきしているようで……」

「う、うむ…… まぁ、カダージュは初めての体験に夢中なのだろう。子どもらしくていいじゃないか。それよりあさっては港まで迎えに行くのだろう?私も一緒について行こう」

「ありがと。もちろん、迎えに行くよ。その日はカダの好物を作ってあげないとね。……まったくキャンプって……何を食べているのか」

 サバイバルをしているわけでもあるまいし、イロケムシの過保護、ここに極まれりといったセリフだった。

 

 ……しかし。

 しかし、だ。

 翌々日に迎えた、カダージュの帰宅。

 それは完遂されなかった。

 

 帰ってくるはずの人間たちが帰ってこないのだ。

 

 ここ最近の平和ぼけで、オレたちには敵対する人間らがいることを、ついうっかり忘れていたのかも知れない。

 異変が起こったのを知ったのは、神羅からの一本の電話であった。

 

 

 

 

 

 

「どういうことなの、連れ去られたって!だって、カダたちのグループって言ったって、十人はいるんでしょ?その子たちを全員さらっていったっていうの?何のために?」

 クラウドの携帯に向かって、イロケムシが怒鳴る。

 きっと電話口のレノは、さぞかし耳が痛いことだろう。

「身代金要求なら、犯人から何か言ってきてるんでしょ!? ウチに電話してきたなら、今さら隠し立てしようたって……」

「落ち着け、イロケムシ。その剣幕でやられたら、アホのレノも何も言えなくなる」

 オレはひょいと電話を取り上げると、レノに向かって言った。

「オレだ。必要なことのみ、端的に答えろ」

『あ?ああ、セフィロスか。あの女男、たまらんぞ、と。かみつかれるかと思っ……』

「端的に答えろと言ったはずだ。……相手組織は?」

 べらべらとうるさい口上を無視し、シンプルに訊ねた。

『まだ、何もわかっていない状況だぞ、と。ただ、カダージュのいた班の皆と連絡がとれなくなっている。装甲車で連れ去られるのを見た子どもたちが居る』

「……たまたまカダージュの居たグループが狙われたのか……そんな偶然はないよな。『たまたま』あのガキが神羅のサマースクールに参加して、いくつもある集まりの中で、的確に『たまたま』カダージュの班員を連れ去ったなどとは出来過ぎている。……狙いはあのガキ本人だろう」

『アンタはどこかの組織がカダージュを連れ去るつもりで、そのグループを狙ったっていうのかよ』

 慎重にレノが口にする。

「金銭目当ての連中なら、とうに連絡があってもおかしくはないだろう?」

『……社長もそう言っている。いや……まだはっきりとはわからないが、カダージュを狙った可能性も十分考えられるぞ、と』

「グループごとさらったのは、逃亡抑止のためだろうな。ああ見えて、あのチビガキは義理堅い」

『冗談言ってる場合じゃないぞ、と。アンタ、なんか見当がついているのかよ』

「さてな。今の情報だけじゃ、何もわからん。だが、嫌な予感がする」

「ちょっとセフィロス、嫌な予感って何!?カダたちは一体どんな連中にさらわれたっていうの?」

 耳元でイロケムシが怒鳴るが、それを適当にかわして、電話口に集中した。

「とにかく情報合戦なら、おまえらのお手の物だろう。居場所だけでも早くつきとめろ」

『……わかってるぞ、と。今、必死に手がかりを追っているところだ。……何か掴んだら、すぐにアンタたちに連絡する』

「おまえもうすうす感づいてやがるようだな。オレたちの出番があるってのは、そういうことだ」

『ただの身代金欲しさの誘拐ならいいんだけどな。いや、よくはないが……まだ、なんとも言えないぞ、と』

 そういうと、レノは電話を切った。

 会話をオープンにしていた茶の間には、この家の人間全員が集まっていて、重苦しい空気が支配していた。