テンペスト
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<8>
 
 カダージュ
 

 

 

 

 

 目が覚めたのは、固い金属製の床の上であった。

 ぼくたち、第五班九名は、一人残らず、後ろ手に縛り上げられ、床の上に寝転がせられていた。

 

「カダージュくん……気がついた?」

 小声でぼくの背後の女の子がささやいた。

「マリア……ちゃん? ソフィアちゃんも……?」

「うん……」

「ここはどこだろ……?」

 ソフィアちゃんが、心細げな声を上げる。

「それより、ふたりとも怪我はない?他のみんなは……?」

 ぼくが上半身を起こしたときである。

 薄暗い部屋の入り口付近に居た男が、ガシャッと音を立てて、マシンガンのようなものを向けた。

「ひぃいッ!」

「きゃッ!」

 口々に悲鳴が上がる。ぼくを抜かした八人も、どうやら同じ場所に居るらしい。

 ……『らしい』というのは、この場所は薄暗くてよく見えなかったし、今の悲鳴に男連中の声も混じっていたからだ。

 

「大丈夫だよ、撃ってきたりはしない。殺すつもりなら、いくらでもそのチャンスはあったはずなんだから」

 ぼくは勇気づけるようにみんなに声を掛けた。

「怪我をしている人は……いないんだね。みんな、ここに連れてこられただけで」

「大丈夫みたいだけど……でも、私たちこれからどうなるの……?」

 半分涙声で、マリアちゃんがつぶやいた。みんな同じ気持ちだったのだろう。堪えていた嗚咽を漏らす者も出てきた。

 

 

 

 

 

 

 銃を持った男は、ツカツカと目の前までやってきて、ぼくの腕を取り、強引に立たせた。

「おら、起きろ」

 ぐいと引っ張られる。

「言われなくても立つよ。腕が痛い、放せ」

 ぼくはなるべく押さえた声でそう告げた。

「なんだと、このクソ生意気なガキが…… おい、こっちだ」

「……放せと言ったんだ」

「クッ……この……!」

 殴りかかろうとするのを、男は理性で留めたらしかった。

「おい、クソガキ! おまえに用がある。他の連中の命が惜しかったら素直についてこい」

 男は、マシンガンでぼくの背をつついた。

「わかった……言われなくたってそうするよ。でも、他のみんなに怪我ひとつでも負わせたら許さないからな」

「ハン!縛られてるガキがナマ言うぜ!とにかく大人しく歩け!」

 話は終わりとばかりに、ぼくは背後からどんと突き飛ばされた。慣性の法則に従って、二三歩前に歩き出す。

「カ、カダージュくん……!」

 女の子たちの声が聞こえる。

「大丈夫。ぼくは平気だから。必ず助けるからね。気をしっかり持ってね」

「カダージュくんッ!」

 歩き出した目の前は自動扉で、ぼくを飲み込んだ後に、しゅっと音を立てて閉まった。

 

 長い廊下が続いている。

 しかし、窓はひとつもなく、人工的な灯りだけが足元を照らしていた。

 

 ……どこかの施設の、地下室……?

 ぼくの脳みそがはじき出したのは、そんなイメージの場所であった。

 

「そら、とっとと歩け」

 さらに後ろから銃で追い立てられ、ぼくは素直に足を進めた。

 今は両手の自由を奪われているし、人質が八人もいる。軽率な行動には出られない。

 

 そう考えて、ふと一年くらい前の自分を思い出した。

 まだ付き合いの浅い友だちを、しっかり『大切な人質』と考えられるほど、『ぼくは成長している』のだと。