テンペスト
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<11>
 
 セフィロス
 

 

  

 

「レノ先輩!」

 車から降りると、タークスの女がレノに駆け寄ってきた。

「天幕張ってのかよ、と」

 見れば、がれきを馴らした地面の上に、簡単な小屋を建てている。

「本社まで連行しようと考えたのですが、時間が惜しいので」

 そう言いながら、女はこちらに向かってぺこりと一礼した。おそらくヴィンセントに対してだろう。

 以前、思念体連中にさらわれた経験のある彼女が、ヤズーやロッズに頭を下げるはずはなかろうし、それを救ったヴィンセントに一礼するのはしごく当然だったからだ。

 

「……中にいます。白衣を着ていて……いったいこんな場所で何をしていたのか……何も言いません」

「ご苦労だったな、イリーナ。俺たちがちょっと話を聞いてみるぞ。ルードと一緒に、外を張っていてくれ。なんだかこの場所は験がよくないぞ、と」

「……ロッズ。おまえも外を警戒していろ。科学者もどきの仲間がやってくるかもしれないからな」

「わかった!」

 オレの言葉に、ロッズがイリーナたちとは反対方向に陣取った。

 

 簡易な小屋の中に入っていくと、両手を後ろ手に手錠をかけられた男が椅子に座らされていた。だらしなくたるんだ腹が、薄汚れた白衣から突きだしている。

 じろりとこちらをにらんだ目は、自らが不当に束縛されているのだということを訴えていた。

 

「おい、神羅だからって、民間人を強引に拘束していいのか。俺はたまたまこの場所に居ただけだ。訴えてやるぞ!」

 側に近寄ったレノに向かって、唾を飛ばして吠えるのであった。

 

 

 

 

 

 

「その民間人が、なんでこんな廃墟にいるんだぞ、と」

「どこにいようと俺の勝手だ。早くこいつを外せ!」

「そうはいかないぞ、と。生命科学研究所の跡地で、いかにもな白衣を着た男を放っておけるかよ、と」

 レノが警棒を突きつけると、男はうっと呻いて顎を引いた。

「赤毛くん、時間がないんだ。手短に頼むよ」

 ヤズーが早口でそうささやいた。

「そうだな。……おい、アンタ。サマースクールの十人グループをさらったのはアンタらのしわざか?」

「知ったことか」

「……アンタはなぜ、こんな廃墟にひとりで居たんだ。しかも白衣なんぞを身につけて」

「ふん!貴様に答える義理なんぞないわい!」

 レノはふぅと大きく吐息して、ホルダーから銃を取り出した。

「脅しだと思うなよ、と。アンタが何も答えられないなら用無しだ」

「そんなものを突きつけたって……」

 ドゥン!

 レノの放った銃弾は、男の頬を掠めて、粗末な小屋に穴を空けた。

「ひぃッ!」

「コイツは飾りじゃないぞ、と。さぁ、言え」

 レノが銃をヤツの頬にぴたぴたと宛がう。

「ひ、ひぃ!やめ……やめてくれッ!」

「存外根性の無い野郎だぞ、と。素直に吐けばコイツを使わずに済むぞ。アンタは十人をさらった一味なんだな」

 レノが身を乗り出して質問した。

 ヤズーがごくりと息を飲んだ……

 粗末なテーブルの上に置いた時計が、妙にカチコチと耳障りな音を立てていた。