テンペスト
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<12>
 
 セフィロス
 

 

  

 

「い、一味なんかじゃない!た、頼まれただけなんだッ!手伝っただけなんだ!」

「……手伝った?」

 レノが復唱する。

「そ、そうだ!か、金をもらったんだ。こ、こんなものを着ているが、俺は科学者じゃない!ただ、子どもたちを運ぶのを手伝っただけだ!」

「子どもたちを……!」

 ヤズーが思わずというように、男につかみかかりそうになった。

「おい、落ち着け。レノに任せておけ」

「あ、う、うん……」

 なんとか大人しく引き下がる。

 

「それじゃ、ガキどもがどこに居るか知っているな。それを早く言うんだぞ、と」

「そ、それは……」

「どうした、鉛の弾を撃ち込まれたいか?」

「やめ、やめてくれ……! 言えない!それを言ったら、殺されてしまう!」

 バタバタと椅子の上で足をばたつかせて、男が叫んだ。

「……今さらそいつはないぞ、と」

「頼むッ!ほ、本当に言えないんだ。必ず、奴らに報復される!お、恐ろしい連中なんだ……!」

「……恐ろしいというなら、俺たちのほうが恐ろしいと思うよ」

 そう言ってヤズーが歩み出た。止めようかとも思ったが、好きにやらせることにした。時間がないのは本当のことだからだ。

「……ど、どうしても言えないんだ。そいつを言ったら、俺は……! ひぎゃあッ!」

 ぼとりと男の右側に何かが落ちた。

 男の右耳から、色の黒い血が溢れ出す。

 ヤズーは、眉ひとつ動かさずに、男に向き直った。

「……ふたつあるのは、耳と目と…… さぁ、次はどこがいい?」

「ひ、ひぃぃ!」

「ふたつあるんだから、目玉がいいかな」

 いつ取り出したのか、血に塗れたナイフを右手に構え、男の顔に手を掛けた。

 

 

 

 

 

 

「おい、そいつは本気だぞ。しゃべるんなら早いほうがいいだろう。鼻まで削がれたら、表を歩くのにも苦労すると思うぞ」

 のんびりと後ろから声を掛けると、男は心底肝を冷やしたようだ。

 目の前の髪の長い美しい男が、自分を雇った男たち以上に、残忍で恐ろしいのだということに気付いたらしかった。

「ひぃっ!やめっ、やめてくれーッ!」

 

 よろけて、ドンとオレにぶつかるヤツがいた。ヴィンセントだ。

「セ、セフィロス……ヤ、ヤズーが……」

「まぁ、こんな状況だからな。……殺しはしないだろうよ。死なせたら、何も訊けないからな」

「で、でも……あ、あんなこと……ッ」

 小刻みに震える肩を支え、役得とばかりに抱き込むが、ヴィンセントは身じろぎすらしなかった。

「下のチビガキのためだからな。止めようがない。だが、おまえ向きじゃなからな。もう見るな」

 そう言って、細い身体をふところに抱き込んだ。クラウドが何か異議を申し立てるかと思ったが、ヤズーの気迫に飲み込まれたようで、ずっと呆けたように立ちつくして、現場を眺めていた。

 ナイフを握りしめた、ヤズーの手が、男の右目に触れそうな……そんな瞬間だった。

「ひぃぃぃ!言う、何でも答える!だからもうやめてくれぇッ!」

 ひっくり返った声が、小屋に鳴り響いた。

「……もう、降参かい?残念、俺も人間の目を刳り抜くのは初めてだったのに。それじゃ答えてもらおうか」

 蒼冷める男に向かって、ゆっくりと口を開いた。

「カダ……子どもたちはどこだ。さらった連中のことも教えてもらおう」

 冷ややかなヤズーの声が、天幕に響いた。