テンペスト
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<14>
 
 カダージュ
 

 

  

 

 

(ヤズー……!)

 思わず足が止まる。

 だが、ぼくを連行する男たちは、遠慮無しに先へと促すのだ。

「おい、何をぐずぐずしている。さっさと歩くんだ」

「……ッ」

「……何だコイツ、震えてるぜ。さっきまでとずいぶん態度が違うじゃねーか」

 どんと後ろから突き飛ばされて、ぼくは前のめりに転んだ。

「おら、この生意気なガキが!」

 遠慮のない蹴りが、腹部に入った。

「ゲホッ!ゴホッ!」

 苦痛に身を折るが、身体の痛みよりも、心を惑わす得体の知れない怖れに身がおののいた。

「ガキのクセにえらそーにしやがって! 気にいらねぇんだよ!」

 よほど、ぼくの態度に鬱憤がたまっていたのか、髪を引っ張られ、顔を持ち上げられた。

「おい、よせ。傷つけたら、雇い主に何を言われるかわからんぞ」

 そのうちのひとりが、煩わしげにそう言った。

「へっ、後はこいつを引き渡せば仕舞いだろう。このクソガキをよ!」

 腰の部分を蹴り飛ばされて、ぼくは地面を転がった。

「痛ッ……!」

「どうだ、少しはこたえたか。大人をバカにするんじゃねーぞ!」

 吐き捨てるように男が言った。皆、一様に同じようなサングラスを掛けているので、見分けがつかないのだ。

「うるさい……!縛られた相手に暴力を振うなんて最低だ」

 ぼくはしごく真っ当なことを言った……つもりだった。

 だが、しょせん、人間のくずのような連中に通じるはずもなかった。むしろ、激昂させるのがオチだ。

「野郎!二度とそんな口が聞けないようにしてやる!」

 ひとりがそう叫んだときだった。

 男が持っている無線機がザーッと不快な音を立てた。

 

 

 

 

 

 

「……はい、はい、はい!いや、す、すいません」

 おかしいようにヘコヘコと小さな無線機に向かって、頭を下げる。その様子は失笑するほどに滑稽だ。

「え、ええ……すぐに、いや、こいつ、ここまで来て、急に震えだしやがって。歩かなくなっちまって……えっ、ええ、すぐに……!」

 どうやら無線機の先には、絶対的なあるじが居るらしい。

 男たちのバカ丁寧な態度は、眺めている分には可笑しいだけだが、その先にいる主に恐怖しているともとれる。

 なんせ、絶対服従のような有様なのだから。

 

「はい、すぐに連れて行きます。ええ……はい」

 ぷつりと無線を切ると、苦虫をかみつぶしたような表情で男が振り返った。よく見れば、ロッズと良い勝負と言えるような体格のいい男だった。

「おい、遊んでいる場合じゃねーぞ。ずいぶんとお待ちかねのようだ。さっさと行くぞ!」

「チッ、わかったよ。ったくうるせぇな!」

「毒づくな。これでもう面倒な仕事は終わりなんだからな」

 三人の男は口々にそう言うと、地面に転がったぼくを乱暴に持ち上げた。足が着かなくて、身体がぶらぶらと揺れる。

「ほら、しっかり歩け!」

 転ばない程度に突き飛ばされ、ぼくは強引に足を進めさせられた。

 

「ここだ、入れ」

 地面が持ち上がって、黒い鉄の階段が現われた。

 銃を突きつけられ、そこを降りる。

 長い……長い階段だ。

 カツーンカツーンと冷えた足音が、永遠にこだまするようだ。

 

(この場所は嫌だ……!早く帰らないと……!)

 ぼくはここに来て、初めて焦燥というものを感じた。

 人質を取られたり、地下室に閉じこめられたりしたときも、もちろん困惑したし、嫌だとも感じた。

 だが、どこかしらに余裕も残っていて、心底焦ることはなかった。

 

 しかし、今は違う。

 一刻も早くここから離れなくては……!

 本能がそう告げているのだ。

 

 一歩一歩と階段を降りる足が、ぐらぐらと揺らぎ、倒れ込んでしまいそうになるほど、ぼくは動揺していた。