テンペスト
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<15>
 
 セフィロス
 

 

  

 

 

「マリアちゃん、ソフィアちゃん、しっかりして! 今すぐ、縄を解いてあげるからね!」

 ヤズーが顔見知りの女どもを見つけて、側に駆け寄った。

 片耳から血を流した男が気絶した後、かっきり三十分後に、オレたちは、人質の囚われている地下通路に到着していた。

 DGソルジャーの人体実験をしていた施設、生命科学研究所の跡地の地下に、まだ残されていた通路が存在したのだ。

 どこまでも続きそうな長い廊下から、一部屋だけ入れる場所があった。かつては地下深く幽閉されたDGソルジャーで埋め尽くされていたかも知れないその場所に、人質の九人が閉じこめられていた。

 しかし、そこにカダージュの姿は無い。

 

「おい、そいつらは殺すなよ。チビガキの居所を知っているかもしれない」

 人質の見張りをしていたらしい男たちをとっつかまえて、ふん縛ってある。

 そいつらに銃を突きつけながら、赤毛が頷いた。

 

「マリアちゃん、ソファちゃん……可哀想に。こんなに強く縛られて。もう大丈夫だよ、安心して」

 カダージュのいない現状に、内心の焦燥は激しいだろうが、ヤズーは穏やかな声で女たちを労った。

「ヤ、ヤズーさん……」

 髪の長い方の女が口を開く。

「ん、何?……さぁ、これでよし。手首をさすってあげてね」

「あ、ありがとう。あの……カダージュくんが、カダージュくんが……」

「カダが?どうしたの?」

 落ち着いた声で、ヤズーが確認した。

「はい……みんなをかばってくれて……車でどこかに連れて行かれました。はやく……助けに行って……!」

「ありがとう、必ず連れ戻すよ。君たちのことは神羅の人たちが責任をもって家まで送り届けるからね。安心して」

「はい……はい……!」

 ぼろぼろと大粒の涙を流して泣き出した女を慰め、ヤズーが立ち上がる。

 それとほぼ同時に、タークスの女が所員たちを率いて、この地下広間に入ってきた。

 子どもたちに飲み物を配り、安全を確認してから、撤収の準備を始める。

 

「それじゃ、おまえさんたちはこっちだぞ、と」

 レノが銃を突きつけ、後ろ手に縛り上げた男ふたりを連れて通路に出た。

 

 

 

 

 

 

 今度はナイフを振うことなく、あっさりと行き場所を聞き出したオレたちは、レノに用意させたジープに乗ってすぐさま走り出した。

「……まさか、忘らるる都だとはね。なんだか嫌なカンジ」

 助手席に乗ったヤズーが、苦虫をかみつぶしたような面持ちで低くつぶやいた。ちなみに車の運転はクラウドがしている。

「なんでだよ。あそこだと何かまずいの?」

 というクラウドの問いかけに、ロッズがおずおずと答えた。

「……俺たち……あの場所で生まれたみたいだから。よく覚えていないんだけど、忘らるる都に居たときは、まだ意識が混濁してて、三人ひとかたまりになっていたような……」

「そ、そうだったのか……」

 ヴィンセントが息を飲む。

「ミッドガルに行ったのは、その後のことなんだよ。忘らるる都って……なんだか今でも怖くて」

「その図体で怖いもなにもないだろう。今のおまえたちは、各々自我をもって独立した個体なんだ。そんなことに怯えるな」

 やや乱暴な物言いかとも思ったが、オレはそう言ってやった。

「セフィの言うとおりだよ。黒幕がどんなヤツかはわからないけど、俺たち全員でカダを取り戻しておしまいだ」

 クラウドが言った。

 レノが締め上げたふたりの男たちだったが、カダージュが連れて行かれた場所は知っていても、ボスの名前すら知らされていなかったのだ。ずいぶんと用心深い輩らしい。

 だが、DGソルジャーの元研究所を知っていた連中なのだ。おおよその想像はつく。

「セ、セフィロス……あの……」

「なんだ、ヴィンセント」

「やっぱりこれは……DGソルジャーの……ネロたちのしわざなのだろうか」

 その名を口にするのが恐ろしいように、震えた声でヴィンセントがつぶやいた。

「さぁな。まだ断定する材料が少ないからな。だが、生命科学研究所の跡地を利用したこと、まがりなりにもカダージュのような特殊なガキを誘拐したことを考えれば、その可能性は高い」

 オレの言葉に、ヤズーがこぶしを握りしめた。何もしゃべらないが、ぎりりと唇を噛む。

「おい、イロケムシ、熱くなるなよ。すべては末のガキの無事を確認してからだ」

 そう言ったオレの言葉に、ヤツはただ、

「わかってる」

 とだけ応えた。