テンペスト
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<19>
 
 セフィロス
 

 

  

 

 

 

 

 ……ずいぶん長い階段だ。

 相当地下深くにもぐっている。

「……戦闘がしにくいな」

 オレは独り言をつぶやいたつもりだったが、耳ざといヴィンセントが聞き止めていた。

「せ、戦闘……や、やはり……」

「まだ相手のことはわからんがな。カダージュがここに連れ込まれたのは確実だ。おまけにこんな場所の地下に、秘密基地のようなものを持っている……いずれにせよ確信犯だ。末のガキを取り戻すのは力尽くになるだろう」

「そう……だな」

「そう暗い顔をするな。末のガキは大丈夫だ。何かあれば、オレもヤズーたちも感じ取るだろう」

「ん……わかっている」

 心臓のあたりを手で押さえて、ヴィンセントが頷いた。

 口には出さなかったが、まだ見ぬ敵……それがDGソルジャーである可能性が高いということが気になるのだろう。

 ヴィンセントにとって、DGソルジャーは鬼門だ。以前に拉致され、傷つけられた経験がある。

 しかし、それはただの恐怖だけではなく、ヴィンセントはどこかネロたちに同情している節があるのだ。オレの懸念はそこであった。

 

 そのときであった。

 グインと階段が揺らいだ。それは大きく旋回し、一定の場所でぴたりと止った。どうやらこの通路は筒状になっており、望んだとおりの地点に自在に到達させられるような作りらしい。

 遠心力に振り回されたクラウドが、階段にしがみついたまま、

「なんだよこれ、嫌なカンジ……」

 とつぶやく。

 さもあろう。これを操っているのは当然、相対している敵である。そいつらに自由に行き場所を決められているのだ。連中はすでに侵入者であるオレたちに気付いている。

「兄さん、大丈夫?つかまって」

 ヤズーが背後のクラウドを気遣って手を差し伸べる。

「うん……平気。なんだか敵の手の平で転がされているような感じがする」

 仏頂面でクラウドが言った。

「今のところ形勢は大幅に不利だな」

「セフィ!ヤなこというなよ。地下ってだけで、ただでさえ気が滅入るんだから」

「いつも以上に注意して動けと言っているんだ。ほら、先に進むぞ」

 そう促すと、ヤズーはふたたび階段を下り始めた。

 

 

 

 

 

 

「……行き止まりだよ。ドアがある。鉄の重そうな扉。動くかな……」

 ヤズーが踊り場のような場所に到達し、そうささやいた。

「おい、慎重にやれ。……クラウド、ヤズーと一緒に開けろ」

 オレはそう命じると、剣をかまえた。扉の向こうに『気配』がある。それが何者であるのかはわからないが、数多くの息づかいを感じるのだ。

「……来るぞ」

 クラウドも大剣をかまえ、ヴィンセントがケルベロスを装備する。

 重そうな鉄の扉は、思いの他容易に開いた。オレたちは一斉に部屋の中へ躍り込んだ。

 

 その場所は『部屋』と呼ぶには広すぎた。天井は低いがやけにだだっ広い平面が広がっている。

 シュウシュウという不気味な呼気があちらこちらから聞こえてくる。

「ギィギィ……」

 どこかで聞いたような化け物の垂れ流す音だ。

 

 連中は助走をすることもなく、その場から一気に跳びかかってきた。

 迷っている暇はなかった。

 オレたちは互いに背を扉に向け、襲いかかってきた連中を次々と打ち倒していった。

 

「セフィ!DGソルジャー!」

 クラウドが剣を振りながら叫ぶ。

「ああ、思った通りだな。……となると影で糸を引いてやがるのは……」

「ネロだろうね!」

 ベルベットナイトメアを剣のように操り、ヤズーが叫んだ。

「ヴィンセント、大丈夫?」

 そのままそう訊ねる。

「あ、ああ……大丈夫だ」

「ネロと対峙することになっても、問題ないからね。俺たちがついているんだから、安心して」

 カダージュのことも大切に思っていようが、ヤズーはヴィンセントのことを心配していた。彼もヤズーにとっては大事な人間なのだ。

 

 ギィィィ、ギシャァァァ

 不快な音を立て、DGソルジャーが次々と、いとまなく襲いかかってくる。

 中には人の体裁を保っていない個体もある。手加減していては、こちらがやられる。遠慮会釈無く斬り倒していくが、気分の良いものではなかった。

 

 彼らだとて、もとは人……恐るべき人体実験によって生み出された悲劇の産物なのだから。