テンペスト
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<20>
 
 セフィロス
 

 

  

 

 

「それにしても数が多いな。まさかこんなにDGソルジャーの生き残りがいるなんて!」

 クラウドが叫んだ。

「無駄口叩いてる場合じゃないでしょ。次々にやっつけなきゃ」

 ヤズーが応える。

「だが、時間が惜しい。出口をさがそう」

 冷静にヴィンセントが言った。オレもその意見に賛成だった。DGソルジャーは通常の人間よりも、遙かに卓越した運動能力を持つ。

 だが、雑魚どもに限って言えば、『それだけ』なのだ。数が多いのは厄介だが、上手く移動しながら戦闘することで、この場所からの出口を見つけるべきと考えた。

 と、なると左右の壁にそって移動するのが定石だろう。

 

「よし、クラウド、ヤズー、左側の壁にそって移動しろ。ヴィンセントはオレと右方向だ。出口を見落とすなよ!」

「OK!」

 クラウドたちがそう叫んで、移動し始める。

 オレもヴィンセントと歩調を合わせて、右に進んでいった。

 

 斬り捨てたDGソルジャーの骸は、すぐさま黒い塵となって霧散してしまうが、そうでなければこの地下空洞には、山のようにヤツらの遺骸が積み重ねられていることだろう。

 

 ヴィンセントの銃が、一撃の無駄もなく、敵を仕留めていく。おやさしいこいつのことだ。心の中では葛藤があろうが、今はカダージュのために迷い無く引金を引いているのであった。

 

「ヴィンセント! 無理をするな」

 そう声を掛けるが、健気にもヤツは次々に、もとは人であったはずのDGソルジャーを撃ち倒していった。

「だ、大丈夫……大丈夫だ」

「バカが、真っ青だ!少し退け。壁の近くに移動して扉を見つけろ」

 オレがそう言うと、強張った顔をわずかに緩めて、素直に壁際に移動した。

 ……可哀想なことをしたと思う。

 最初からDGソルジャーが絡んでいることを知っていたのなら、ヴィンセントをおいてくることも出来た。

 だが、家族大事で何より一番なこの男のことだ。

 残れと言っても素直に従ったか否かはわからないが。

 

 そんなオレの物思いを切り裂く一撃が繰り出された。

 すんでの所で刀でそれを受けとめる。紅の輪は火花を上げて回転し、瞬時に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

「朱の……ロッソ……」

 ヴィンセントが掠れた声でつぶやいた。

「なんだと?」

 よく聞こえなかったオレは大声を上げた。

「朱、朱のロッソ……ツヴィエートだ。バカな……彼女はもう……」

 紅の装束に身を包んだ長身の女は、間髪入れずにヴィンセントとの間合いを詰めた。一瞬、彼の反応が遅れた。

「クソッ!」

 巨大な鉄の環がヴィンセントを襲う。

 オレは正宗を持ち替えると、渾身の力で振り回し、峰を使って、素振りの要領で環を打ち返した。

「セ、セフィロス……」

「大丈夫か。オレの後ろに下がっていろ」

 背後を見ずにそう言うが、ヴィンセントは必死に態勢を立て直し、

「わ、私も、た、闘う……!」

 と叫んだ。

「無理をするな。……何なんだ、この女は。他のDGソルジャーとは違うようだが」

 ことさら冷静に訊ねる。本人は自覚してはいないかもしれないが、この女の出現に、ヴィンセントは動揺している。

「セ、セフィロス……彼女はツヴィエートだ。すでに亡くなっているはずなのに……」

「その辺の詮索は後だな。ツヴィエート……確か、話には聞いていたがな」

 DGソルジャーの中でもエリート集団というべき存在だったはずだ。

 漆黒のネロ……朱のロッソ、蒼のアスールといったか……だが、彼らはネロたちを抜かして、すでにこの世にはいないはずの存在であった。

「……気を付けてくれ。ツヴィエートの戦闘能力は、通常のDGソルジャーの比ではない」

 ヴィンセントが低くささやいた。

 DGソルジャー連中には、その女の異質さがわかるのだろうか。

 彼女が現われて、オレたちに狙いを定めてから後は、一体たりともこちらを襲ってくることはなかった。むしろロッソを避けているような素振りさえ見える。

「いいじゃねぇか。一対一で。……女を相手にするのは気が引けるが、そうも言っちゃあいられないんでな」

 ヴィンセントを強引に脇に避けさせ、オレはロッソという女と対峙した。

 女は何もしゃべらない。ただの殺人兵器のように凶器を操るのみだ。

「……いくぞ!」

 オレは刀を構え、一挙に跳躍した。