テンペスト
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<21>
 
 セフィロス
 

 

 

 刀と環がぶつかり合い、火花が飛び散る。

 驚いたことに、このオレに対して、ロッソは力負けすることはなかった。

 女である、という概念は捨ててかかったほうが良さそうだ。

 

 オレと女が少し間合いを取ったとき、ヴィンセントが話しかけてきた。

「ク、クラウドとヤズーは大丈夫だろうか……」

 こっちに朱のロッソが来ているということは、逆手にはアスールあたりが張っていることだろう。

「あいつらのことだ。なんとか凌ぐだろ」

「あ、ああ……」

「なんにせよ、こっちを早く片付けねーとな!」

 一歩大きく踏み込んで、刀を振り回す。渾身の一撃だが、ロッソは素早く身を躱した。赤い髪を一房斬り落としたが、女自身を傷つけることは出来なかった。

 ……身のこなしが速い。

 ヴィンセントのいうとおり、侮ってかかってはならない相手のようだった。

 

「はっ!」

 深紅の環がオレの胸元ギリギリを掠めてゆく。武器が女の手元に戻っていくときが最大のチャンスなのだ。

 間合いを詰め、女のふところに飛び込んだ。

 環が彼女の伸ばした手に戻ると同時に、踏み込んだ。

 

 下から上に向って刀を振る。

 確かに手ごたえを感じたが、それは途中で食い止められた。

 腰から胸元に向って斬り込んだ太刀を、戻ってきた環で女が食い止めたからだ。

「ガハッ!」

 彼女の口から、血が噴き出す。

 だが、まだ瞳に力が失われていない。女は恐るべき膂力で、その身に食い込んだ刀を下に押し下げた。

「クソッ!しぶといな!」

 オレは刀を引き抜いた。もう一太刀浴びせられれば勝負は付く。

 ふたたび紅の環がオレをめがけ、うなりを上げて飛んでくる。

 ヴィンセントも同時に、横飛びになってそれを躱し、オレは最後の一撃を繰り出した。

 突きの要領で、女の左胸に切っ先を構える。

 そのまま、身を進めると、ついに女の心臓を刺し貫いた。

 

「グ……ハ!グアァァ!」

 鮮血がほとばしり、女はうめきを上げてその場に倒れ込んだ。

「ヴィンセント、怪我はないな」

「あ、ああ。セフィロス……! 向こうのほうに扉が見える!」

 ヴィンセントが叫んだ。

「ああ、よし。行くぞ。……朱のロッソか。フン、なかなかの相手だったな」

「君のおかげで私は無傷だ」

 そういいながら、ヴィンセントは仰向けに倒れた彼女の両目を閉じてやった。

 

 

 

 

 

 

「セフィロス! ヴィンセント!」

 オレたちが出口に向って走り出すと同時に、DGソルジャーの群れから、クラウドとヤズーが飛び出してきた。

 その後を、血にまみれた蒼い巨体が追ってくる。

「セフィロス……蒼のアスールだ!」

 ヴィンセントが叫んだ。

「アホどもが!ちゃんと倒してからこっちに来い!」

 そう告げて、アスールに向って足を進める。

「だって、すんごくしつこいんだよ!」

 クラウドが言う。

 グオォォォ!

 と雄叫びを上げて、アスールがヤズーとクラウドの背後を襲った。

「貴様ももう倒れやがれ!」

 オレは刀を横に寝かせ、跳びかかってきたヤツの横腹を平らになぎ払った。

 ずっしりとした肉の重みを腕に感じる。

「グワァァァァァ!」

「ここまでだ……!」

 一声大きく叫びを上げ、ついにアスールの巨体は床にバウンドして倒れた。ビクビクと痙攣しているが、もう立ち上がることはないだろう。

 

「ハァハァ……まったく何発銃弾撃ち込んだと思ってるんだよ」

 息を切らせてヤズーが立ち上がる。

「でも、なんでコイツ生きてるんだ。間違いなく前に倒したはずだったのに」

 クラウドも息を弾ませている。

「ヴィンセント、大丈夫?」

 ふたりが声を揃えてそう訊ねる。

「あ、ああ、私は……セフィロスが守ってくれて……」

「こっちは朱のロッソとかいう女が現われた。ふたりとももう死んでいるはずの連中なんだろう?」

 オレがそういうと、イロケムシが、

「ロッソまで……」

 と低くつぶやいた。

「……何らかの方法で、死者をよみがえらせることができるのかな……」

「ううん、兄さん。死者をよみがえらせるというより、新しく作り出しているんじゃないかな。もちろん、方法なんてわからないけど」

 ヤズーが言った。

「そうだな。……おそらくはネロ。ヤツが何かを知っているんだろう」

「そうだよね。とにかく先を急ごう。またDGソルジャーたちがこっちにやってくる。早く扉を開けて…… あうッ!」

 いきなり、イロケムシが額を押さえてよろけた。ヴィンセントが慌てて彼を支える。

 

「ヤ、ヤズー……どうした?」

「痛ッ……い、今……今、カダの声が……」

 痛みは一瞬だったらしく、頭を振ってそうつぶやく。

「カダが……何かされているんだ。セフィロス……!急がないと……!」

「……よし、扉を開くぞ。しっかりついてこい」

 オレは閉じたドアに手を添え、力任せにそれを開いた。