テンペスト
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<22>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 また廊下だ。

 だが、今度は筒のような地下道ではない。足音の響き方が違うし、扉がふたつある。突き当たりと側面にだ。

 オレはそのまま走り進み、まずは側面の扉を開いた。

 

 そこはひやりとした薄暗い部屋だった。

 クレゾール消毒薬の匂いが鼻につく。

「な、なに……ここ……」

 ヤズーが掠れた声で低くつぶやいた。ヴィンセントの息を飲む音が伝わってくる。

「キモイ……なんだ、これ……DGソルジャー……?」

 クラウドがつぶやいた。

 

 その部屋にはいくつもの円筒形のカプセルが並んでいた。

「ここで……培養しているのか……?」

 カプセルの中には、人の姿に似てはいたが……だがしかし、不気味に歪んだDGソルジャーらしきものが収まっている。

 カプセルの数はひとつふたつではない。

 この広い部屋にびっしりと並べ立てられているのだ。

 

「う……」

 オレは嫌な記憶を思い出して、口元を押さえた。

「セフィロス、だ、大丈夫か?」

 ヴィンセントが自身も青ざめた顔色をしていながらも、オレを気遣って身体を支えようとする。

「……オレは何ともない。どうやらあの数のDGソルジャーは、ネロの野郎がここで増殖させているらしいな。……死体を使っているのか?」

「わからないけど……とにかく……早くネロを倒さなきゃ……それに……ヴァイスって言ったっけ?」

 ヤズーのヤツも純白のヴァイスを忘れてはいないようだ。

 以前、対峙したときは廃人同様だったが、今もまだ生きているのだろうか。

 

「セフィ、どうする?このカプセルみたいなヤツ。ぶっこわしてく?」

 クラウドが剣を片手にそう訊いてきた。

「いや……中身が出て来て不愉快なことになりそうだ。まずは末のガキを探そう。おそらくネロもそこにいるだろう」

 オレたちは培養室とも呼ぶべきその部屋を出て、もう一方の突き当たりの扉を目指す。

 

 

 

 

 

 

「この部屋か……!」

 ヤズーが勢いよく扉を開くと、果たしてそこにヤツは居た。

「思った通り……やっぱりネロだな」

 クラウドが言う。

 

『……諸君、久しぶりですね』

 悪びれることもなく、ネロが微笑んだ。

 ヤツは、防弾ガラスのような、シールドを挟んだ向こう側に居る。声がわずかにくぐもって聞こえた。

「カダージュ!」

 手術台のようなベッドの上で、横たわっている弟を見つけ、ヤズーがすぐに駆け寄る。

「クソッ!ここを開けろ!」

 ドンドンと力任せにガラスを叩くが、それは素手などではびくともしなかった。

「カダを返せ!」

『いいえ、まだ返せませんね。もうしばし時が必要です』

 ネロはゆっくりと立ち上がると、血で汚れた両手を盆の中に差し込んだ。ちゃぷちゃぷと水音をさせて洗い流していく。

「……貴様、何をした」

 オレはするどくネロに尋ねた。

 

『ふふふ、セフィロス……Sephiroth……S計画はすばらしい。あなたは一度は命を落としたものの、こうしてみごとに甦って、何の疵瑕もなく生き続けている。S細胞はG細胞など比べものにならぬほど完成度が高い』

 よくわからない試験管を取り上げて、ネロが声を震わせてそうささやく。

『S細胞ならば、劣化したG細胞を取り込んで、増殖し続けられる…… 兄さんはまもなく甦る……朽ち果てた肉体を捨てて、新しい美しい身体を媒介としてね……!』

「答えろ!そのガキに何をしたと訊いているんだ!」

 オレはさらに怒気を強めた。

『カダージュくんの身体をいただきました。兄さんの甦る媒介として』

「な、なに……何を言って……」

 ヤズーが声を震わせる。

『兄さんの身体はすでに醜く朽ち果てて収拾がつかない有様なのです。ですがまだ心臓だけは動いている。……ご覧になりますか』

 そういうと、ネロは手術室のモニターに、何やらを映し出した。

 

 それが腐れ膨れて、すでに人の原型を為していないヴァイスなのだと知れた。ヴィンセントが口を押さえてその場に崩れ落ちる。

『もう、しゃべることもできないのですよ。まもなく呼吸が止り、兄さんに死が訪れるでしょう。……ですが、悲しむ必要はなくなったのです』

「ネロ!ここを開けろッ!こうなったら力尽くでも……!」

 ヤズーが銃を構える。

「ヤズー、防弾ガラスかもしれない。跳弾したらまずいよ。剣のほうを使おう!」

 クラウドが、大剣を構えてヤズーと並ぶ。

『フハハハハ……もう遅い。遅いのですよ。カダージュくんは……いえ、もうまもなく彼は「ヴァイス」になるのです。彼のS細胞は移植した兄さんのG細胞を取り込み、増殖させてゆく……』

「あのガキに、ヴァイスの体組織を移植したのか……!」

「うあぁぁぁぁーッ!」

 オレの怒鳴り声に覆い被さるように、ヤズーの高い悲鳴が響き渡った。