テンペスト
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<24>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

「ネロ……貴様だけは殺しておくべきだった。ヴィンセントを傷つけたあのときに、息の根を止めておくべきだった……!」

 ヤズーがベルベッドナイトメアを、ネロに突きつけて、絞り出すような声でそう告げた。

「僕を殺したければそうすればいい。でも、あなた方のお友だち、ジェネシスに劣化症状が現われたらどうします?あなた方だけで打つ手はあるのですか?僕がいなくなった後、ホランダーの資料を読み解ける輩は……」

 ベラベラとしゃべり続けるネロに、引金を引いたのは意外なことにヴィンセントだった。

 

 ガゥンガゥン!

 ケルベロスが火を噴き、ネロの身体がコマのように回転して倒れ伏した。

「グハッ……ヴィ……ヴィンセント・ヴァレンタイン……! あ、あなたが……」

「ネロ……君は私の家族に手を掛けた。もはや許すことはできない……!」

「ヴィンセント……」

 ヤズーも息を飲んで、ヴィンセントを見守る。

「君たちが好きこのんで、そういう形に生れ出でたのではない……それはわかっている。それでも……私だけでなく、この子を……カダージュを傷つけたことは許せることではないんだ」

「ヴィンセント・ヴァレンタイン……!あなたはカオスを宿している。本来ならば、こちら側の人間だ……!」

 ネロが傷口を押さえ、よろけながらそう言った。撃たれたみぞおちからは血が噴き出し、死に至るのは時間の問題だと思われた。

「あなたさえ、こちらに来てくれれば……!僕はずっとあなたが欲しかった……!」

「……私は確かに普通の人間ではない。化け物と呼ばれても仕方がない者だ。だが……君たちのように、自身のために他の人間を屠ろうとは思わない……!私は……私は決して……そんなことは……!」

「ヴィンセント、もういい。おまえのことは、ここにいる全員がよくわかってるんだ」

 オレは前に進み出るヴィンセントの肩を引き寄せてそう言った。

「それよりも今はカダージュのガキだ!点滴を引っこ抜け!このまま医者のところへ連れて行くぞ。ヴァイスの細胞が移植されているんだ。こいつの身体にどんな影響が出るのかわからん!」

「そ、そうだよな。レノたちがヘリを着けてくれているはずだ。早く病院へ……!」

 クラウドが、カダージュをベッドに縛り付けているベルトを外しに掛かった。

「ヤ、ヤズー……点滴頼む。俺、針とか無理だ」

「わかってる、兄さん。あまり揺らさないでね」

 そう言いながら、ヤズーが慎重に点滴の差し込まれた腕を押さえ、針を抜きに掛かった。

 

「ゴボッ……ヴィ、ヴィンセント・ヴァレンタイン……!とどめを……とどめを刺していきなさい…… ホランダーの資料は永久に謎のままに…… ふふ……ゴホッ!」

 そういうと、ネロは血を吐き出し、その場で動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

「セ、セフィロス……セフィロス……私は……」

「ああ、わかっている。もういい。よくやった、ヴィンセント」

「……ネロのいう……資料とは? わ、私はジェネシスのことを考えずに……感情のままに……」

 ヴィンセントは額を押さえて頭を振った。

「ジェネシスの野郎は大丈夫だろ。一応、資料とやらを探してみるか?」

 軽い調子でわざとそう言い返し、カダージュをヤズーたちに任せて奥の部屋に足を踏み入れた。

「わ、私も……!」

 後をついてこようとするヴィンセントを止める。

「来るな!……おまえはカダージュを頼む。時間がないんだ」

「わ、わかった……」

 

 奥の部屋には腐臭がただよっていた。

 薄いカーテンで覆われた空間にはヴァイスがいるのだろう。くぐもったうめきが聞こえる。

 こんな場所に、ヴィンセントを立ち入らせたくはない。

「資料……資料……、チッ!ずいぶんと雑多にとっ散らかしているな」

 その部屋は、前室に比べると大した広さはなかったが、机が並べられていて、その上に、乱雑に文書の束が取り散らかされている。

 手書きでの走り書きから、PCで打ち込まれた文書まであり、どれがホランダーのものかよくわからない。

 だが、時間がない。

 オレは、記憶の片隅にある、ホランダーの字を思い起こし、それらしきものを適当にかき集めた。

 

「セフィ、早く! カダは確保したよ!」

 クラウドの声が飛んでくる。

「わかった。すぐに戻る」

 オレは目に付いた資料を可能な限り小脇に抱え、前の部屋に戻った。

 ヤズーがカダージュを背負い、クラウドとヴィンセントがそれを守るように両脇に立っている。

「セフィロス……!その文書は……」

「ああ、よくわからねーが、一応目に付くものは持ってきた。急いで通路を戻るぞ」

「ヤズー、気を付けてね、俺たちが前を行くから、カダのことだけ考えて」

 クラウドがぐったりと倒れかかったカダージュを見て、ヤズーに告げる。

「うん、大丈夫だよ、兄さん。……急ごう!」

「よし、とにかくここから脱出することだけを考えろ。DGソルジャーだの、後のことは神羅に任せればいい」

「わかった。じゃ、行こう!」

 そう言って、クラウドが飛び出し、その後をヤズーが……そして、彼を守るようにヴィンセントが付き添った。

 オレはしんがりだ。

 資料片手に、DGソルジャーの群れをやり過ごすのは厄介だが、今は文句を垂れている場合ではなかった。