テンペスト
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<25>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

「セフィ! この部屋のカプセルはどうする!?」

 クラウドがするどく訊ねた。

 横部屋にあった培養室のカプセルのことである。

「電源の大元をぶっこわしておけ!」

「オッケー!」

 クラウドが脇の培養ルームに入り、電源を落とした。

 重いチューブの落ちる音が聞こえ、バチバチと火花が散ってカプセル内の電気も消える。

 後のことは神羅に任せればいい。とにかく今は、カダージュを医者に診せることだった。

 

「……神羅の医者じゃダメだな……」

 G細胞とS細胞を診たことのあるヤツ…… オレたちの身体にくわしい人間がいい。

 だが……そんな男……

「セフィロス……カダージュを誰に診せるのだ?神羅の病院で対応できるのだろうか?もはやG計画やS計画について、くわしい医師など居るまいし……」

 ヴィンセントが思案顔でそう言った。オレと同じことを考えている。

「移植されたG細胞を剥がしゃいいんだが、口で言うほど簡単じゃないんだろうな」

「こうしている間にも、カダージュの身体を、植え付けられた細胞が浸食しているはずだ。……どうすれば……」

 走りながらヴィンセントがつぶやく。

「また、あのだだっ広い部屋に入るぞ。DGソルジャーが来る。気を抜くな!」

「おう!」

「あ、ああ、わかった!」

 クラウドとヴィンセントがヤズーを守るように両脇に着いた。

 まずは、とにかくこの地下通路から抜け出るのが先決だ。

 扉を開くと、ふたたびゾンビのようにDGソルジャーが襲ってくる。それを斬り伏せ、なぎ倒しながら前へ進む。今度は壁伝いにではなく、最短距離を行く。

 

 その最中であった。

 ヤズーが声を上げた。

「カ、カダが……!カダが……気がついた……!」

「よし、一挙にここを切り抜けるぞ!急げ!」

 オレたちは足を速め、出口に向って駆け抜ける。

 クラウドが扉の閂に手を掛ける。急いでそれを開けると、ヤズーを先に出した。

「閉めるぞ!ヴィンセントはイロケムシに着いていろ!」

 そう叫んで、オレとクラウドで重い扉を閉める。

 ドンドンとDGソルジャーが壁にぶち当たる音がするが、それを無視して、渾身の力で扉を閉ざした。

 

 

 

 

 

 

「ヤ……ズ…… 来てくれた、の……」

 ヤズーの背に乗っているカダージュが小さくつぶやく。

「ああ、もう大丈夫だ。みんなもいるぞ。遅くなってすまなかったな、カダ……!」

 ヤズーが背後の弟に向かって声を掛ける。カダージュはつらそうに身じろぎをすると、

「う……ん…… お腹……痛い、よ……」

 と漏らした。

「もう少しの辛抱だ!すぐに医者に診せるから!」

 声を励まして、ヤズーが言う。

「カダ、がんばれ!すぐだからな」

 クラウドも傍らからそう告げる。

「よし、走るぞ!クラウド、前を行け!」

「うん、わかった!」

 オレたちは長い通路を出口に向って走った。筒状の通路は揺れやすい。それでも何とか振動を抑え、可能な限り、急いで駆け抜ける。

 出口に到着したとき、クラウドなどはびっしょりと汗をかいていた。

 

「兄さん……!ヤズー!カダ!」

 ロッズが出口に待ちかまえていてオレたちを出迎えた。

 神羅の連中をきちんと誘導したのだろう。

 ヘリが二機と車が五、六台、この場所に着けていた。

「カダ!カダは大丈夫なの!?」

 毛布にくるんだ状態のカダージュを心配して、ロッズが声を上げる。

「すぐに医者に診せる。セフィロス!どうすればいい?」

 ヤズーがそう訊ねてくる。

 オレにはひとりだけ、G細胞もS細胞も診ているはずの男の心当たりがあった。

 

「仕方ねー、他に見当がつかんからな……」

「セフィロス、誰のこと?」

「コスタ・デル・ソルのヤブ医者だ!レノ、ヘリを回せ!」

「おいおい、ちょっと説明してくれよ、と!」

 レノとルードが駆け寄ってくる。

 オレは手早くふたりに状況を話した。

「この地下をくまなく調べろ。そうすればやるべきことはわかるはずだ。だが、DGソルジャーがいる。戦闘員を用意してから動け」

「わ、わかったぞ、と。イリーナ、頼む」

「はい、先輩!本社に応援を頼みます!」

 女はすぐに車のほうへ駆けだしていった。

「それからカダージュを知り合いの医師に診せねばならん。コスタ・デル・ソルにそいつの診療所がある。そこまでヘリでオレたちを運べ!」

「カンパニーの病院じゃダメなのかよ、と」

 そういうレノの襟首を引っ張って、カダージュの視界に入らないところに連れて行く。

「G細胞を移植されているんだ。オレたちの身体とG細胞を診たことのある医師でないと無理だ」

「……チッ、確かに……そんな医者は今の神羅にはいないぞ、と」

「だから、コスタ・デル・ソルに運べと言っているんだ。頼りにゃなんねーが、唯一、ジェネシスとヴィンセント、そして『セフィロス』の身体を診たことのある医者がいる」

 オレはレノにそう告げた。