テンペスト
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<26>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

「とにかく急げ、赤毛!」

 オレは操縦席に座るレノをどやしつけた。

「ヤ、ヤズー……?ヴィンセント?」

 ヤズーに抱きかかえられたまま、カダージュが掠れた声でささやく。

「カダ、もう少しの辛抱だからな。すぐに楽になるから……!」

「う……ん、ねぇ、みんな、は? ぼく……キャンプのともだち……」

「カダージュ、安心したまえ。皆無事で家に帰された。おまえのおかげだ。よく頑張ったな」

 ヴィンセントが彼の片手を握りしめ、やさしくそう言い聞かせる。

「よ、よかった……マリアちゃんも……ソフィアちゃんも……?」

「ああ、カダ。全員だ。みんな無事だったんだよ」

「そっか……よかった…… ヤズー……ぼく……おなか……痛くて……」

「すぐにお医者さんのところに着くからな。何も心配しなくていい!」

「でも……ぼく……ネロに……」

 そのときの記憶があるのだろうか。

 カダージュはネロに手をかけられたときのことを憶えているようだった。

「ネロ……に…… ぼく、ヴァイスになるって…… ヤズーたちを傷つけることに……」

「しっかりしろ、カダ!そんなことには決してならない。必ず治してやる!……まだなの、赤毛くん!急いで!」

 後半の言葉は誰に向けられたものなのか容易にわかるだろう。

 レノは必死に操縦している。可能な限りのスピードを出しているのはとなりに居るオレにはよくわかっていた。

 

「おい、セフィロス。アンタ、本当にその医者で大丈夫なのかよ。ただの町医者にそんな外科手術……」

「しょぼくれた見てくれだが、腕は確かだ。もうすぐ診療所が見えるはずだ。小せぇから見落とすなよ」

 すでにヘリはコスタ・デル・ソルの領域に入っている。イーストエリアはその突端だ。

「レノ、高度を下げろ。そろそろ見えてくるはずだ」

「了解だぞ、と!」

 ヘリはホバリングをしながら、ゆっくりと下降する。

 レノもカダージュの身体に配慮しているのだろう。

 

「あった、あそこだ!」

 後部座席に座っていたヴィンセントが声を上げた。

 彼の指さす方角を見ると、なんとも頼りない一軒家……いや、一軒家兼診療所が見える。

「空いているところならどこでもいい!とにかくそこに停めろ!」

 オレたちのヘリは、空を焼くような夕焼けの中、ちっぽけな診療所の近くへ、着陸したのであった。

 

 

 

 

 

 

「よし、ふたりともいくぞ! レノ、おまえらはここまででいい。大事にすると面倒がる医者なんでな」

「わかったぞ、と。とりあえず、預かってきた当座の費用だ。……ちゃんと領収書もらってくれよ、と」

 そういいながら、レノは厚い封筒を差し出した。ルーファウスから申しつかっていたのだろう。

「ケチくせーこというな。手間賃だ。……後でクラウドとロッズをここに送ってくれ。じゃあ、頼んだぞ。おい、イロケムシ!」

「大丈夫。俺が運ぶ」

 毛布で包んだカダージュの身体をそっと抱き上げ、ヤズーがヘリから降りる。

 続いてヴィンセントを下ろそうとしたとき、聞き慣れたしゃがれ声が近づいてきた。

 

「いったい何なんだね、コレ! こんなところにでっかいヘリコプターを停めてからにして。もう少し逸れたら、畑が台無しになるところじゃないかね、ソレ!」

 小柄な身体に少し折れ曲がった腰。

 夕焼けの逆光でよく見えなかったが、間違いなくなじみのヤブ医者であった。

「おい、ヤブ医者!急患だ!」

「先生、お願いします!」

 オレとヴィンセントが声を掛けると、ヤブ医者は仰々しく身振りを加えて呆れた様子を見せた。

「コレまた、セピロスくんかい?あ~あ、ヴィンセントくんも居るねぇ。いったい何だね、今日の診察はすでに終了しておるんじゃよ」

「そう言うな。報酬ははずむ。一刻を争うんだ、頼む」

 オレがそう言うと、ヤブ医者はヤズーの抱えたカダージュを眺めた。

「顔色が悪いねぇ。いったいどうしたというのかねぇ」

「お腹に傷があるんです。無理やり移植手術をされて……あぁ、こうしている間にもカダの身体が……」

 ヤズーが必死の形相でそう叫んだ。

「何やらぶっそうな話だねぇ。まぁ、ここまで来ちまったんだから仕方がない。お上がんなさいよ、コレ。今日はもう看護婦を帰してしまっているからね。手を貸してもらうよ、ちみたち」

 そう言って、診療所に入るように促してくれた。

 後はこの医者に任せるしかない。

 何とか、対応してもらえれば御の字だ。

「手伝いはオレたちがやる。何とかしてやってくれ、ヤブ医者」

「ヤブ医者に向ってそう言うことをいうかねぇ。まぁ、いいでしょ。早いトコ運んでくれたまえよ、コレ」

 飛び立つヘリコプターを背後に、オレたちは弱ったカダージュを診療所の中に運び込んだ。