テンペスト
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<27>
 
 セフィロス
 

 

 

 

「そこの台の上に寝かせてくれたまえよ、コレ! 道具の準備をするから、彼の腹の包帯を剥がしておいてくれよ、ソレ!」

 ヤブ医者……いや、山田医師は独特の口癖はそのままに、手早く指示を飛ばした。

 広くはない別室に診療台が二つ並んでいる。その片方にカダージュを乗せ、差し出されたはさみで包帯を切り裂いていく。

 すると縫合の後も生々しい下腹部の傷跡が見えた。

 ヤズーが唇と噛み、ヴィンセントは思わずといった様子で顔を背ける。

「到底、上手といった縫合痕じゃあないねぇ。血が止らないでいるよ、コレ」

 山田医師は手を洗いながらそう言った。

 そうなのだ。外した包帯はぐっしょりと血に濡れ、患部に当てられた布は真っ赤に染まっていた。

「脈が弱くなっているね。大分出血したのだろうね」

 そう言う医師に向って、ヤズーが口を開く。

「無理やり、とある人物の細胞を移植したんです。……説明すると長くなるけど……その細胞はカダの身体を浸食して、別の人間に作り替えるって……」

「……ふぅん、なんだか夢物語のような話じゃな。そんなことより、今は中を見て、血を止めないとね、コレ」

「先生、お願いします。カダを……カダを助けてください!どうかお願いします」

「ああ、この子はちみの弟のカダージュくんだったね。まぁ、まずは落ち着きなさい。できるだけのことはするからね、コレ」

 そういいながら、ゴムの手袋をする。

「さてと、何はともあれ、血がいるね。輸血しながらでないと、手術はできんよ」

「先生!俺の血を使ってください!」

 ヤズーが腕を差し出してそういうが、ヤブ医者は頭を振った。

「ちみは卒倒しそうな顔色をしているよ。それに血液の適合を調べんとね。兄弟だからといって、必ずしも血を使えるとはかぎらんよ」

「俺たちは特別なんです……!きっと俺の血ならば……」

「……ちみたちがちょっと人と変わっているのは知っとるよ。セピロスくんやヴィンセントくんの治療をしたのは誰だと思っとるね、コレ」

 どうということないといった表情で、医師はつぶやいた。

 こいつにとっては、オレたちが何者であろうとも関係ないといった様子だった。

「さて、セピロスくんとヤズーくんの血を調べようかね」

「ああ、頼む」

 オレは医師に向って腕を差し出した。

「いんや耳でええよ。耳朶をちょっと傷つけてね……さて、これでいい」

 

 

 

 

 

 

 オレとヤズーの耳をちょっとばかり引っ掻いて、血液を採取する。

 ヴィンセントについては、最初から適さないと判断したのか、それともただでさえ、ひょろひょろと頼りないこいつの血を使おうとは考えていなかったのか、除外したのであった。

「どうだ、ヤブ医者?」

 急かしたオレに、

「ヤブはよけいじゃよ。ふぅん。どうやらセピロスくんのほうが適合しておるようじゃね。ちみの血を使うとしよう。さて急ぐぞ」

 そう言った。

「じゃあ、オレの身体から直接カダージュに輸血しろ。ちまちま血ィ採ってても時間の無駄だろ」

「セ、セフィロス……」

 ヴィンセントが泣き出しそうな顔で、オレの名を呼ぶが、退くつもりはなかった。医者にとっても有り難い申し出であったに違いないのだ。

「……かまわんが、大分負担があるはずだ。いいのかね、コレ?」

「よくなきゃ、最初から言わねぇ。とにかく急げ。無茶な移植手術をした野郎の話だと、リミットは24時間だという話だ」

「わかったよ、コレ。セピロスくんはとなりの寝台に横になってくれたまえよ。すぐに輸血を始めよう」

 オレは横になり、腕を差し出した。

 そこに針を刺され、細い管がオレの血を吸い取っていく。

 

「看護婦がおらんのじゃ。手伝ってもらうよ。……ヴィンセントくん。頼もうかね、コレ」

「任せてください。手の消毒は終えています」

 ヴィンセントはしっかりとした口調でそう言った。そして不安を押し殺した眼差しでオレを見る。

「オレのことは心配するな。それより集中しろよ」

 そう言うと、彼は頷き返した。

「せ、先生、俺は……」

「ヤズーくんは、あっちの椅子にでも座っていたまえよ、コレ。なんだったらとなりの診察室で休んでいてもかまわんよ、ソレ」

「そ、そんなこと……俺も何か手伝います」

「いかんよ、いかん。ちみも真っ青だからね。ここはヴィンセントくんに任せておきたまえよ、ソレ」

 医師は医療器具を並べながらそう言った。

 手術台の上のライトを全開にする。

「ヤズー、今は私に任せてくれたまえ。大丈夫、カダージュは必ず助かる」

 ヴィンセントがそれを手伝いながらそう言った。