トライアングル コネクション
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<7>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

  

『セフィロス』を無事、ホテルまで送り届け、部屋番号をしっかりと確認すると、私は帰途についた。まだ話をしていたかったが、無表情の彼に疲れが見えたからだ。

 気になりはしたが、こういうときには引き際が肝心なのだ。

 後ろ髪を引かれる思いと決別し、すぐに回れ右をしたのである。

 

 家に戻ると、居間から飛び出してくる勢いでレオンがやってきた。

「ヴィンセントさん……!『セフィロス』は……『セフィロス』はどうだった?俺のことを何か言っていたか!?」

 詰め寄られる形になって、私は思わず息を飲んでしまった。

「い、いや……その……あ、あの」

「レオンったら、落ち着いてよ。ヴィンセントが後ろに倒れそうじゃない」

 ヤズーがキッチンから出て来て声を掛ける。

 きっとレオンは私が帰ってくるのを、じりじりとした気持ちで待っていたのだろう。ヤズーのことだ。その様子を面白がって眺めていたに違いない。

 

「あ、あの、そちらの『クラウド』は……」

 私は気になっていたことを訊ねた。

「ああ、彼ね。疲れてたみたいで、倒れるように眠り込んでしまったよ。サンルームのソファベッドに寝かしてある」              

 ヤズーの言葉に私は頷き返した。彼の前で『セフィロス』の話は禁句だ。

「それで、ヴィンセントさん?『セフィロス』は何も言っていなかったのか?俺のことを呆れて……」

「落ち着け、朴念仁」

 長身のレオンの後頭部をぽかりと殴って、我が家のセフィロスが止めた。

「はぁー、情けないッ!貴様はこと『セフィロス』のこととなると、理性がぶっ飛ぶみたいだな。ったくあんなヤロウのどこがいいのか……」

「同じ顔をしてひどいことを言わないでくれ!アンタだって大切な人間相手ならば必死になるはずだ」

 そう言い返すレオンに、

「バカ野郎、オレ様を貴様と一緒にするな。とにかくホテルに閉じ込めた。『セフィロス』は安全だ。これでいいだろう」

 と、適当にいなした。

 

 

 

                     

 

 

「レオン……セフィロスのいうとおり、君の大切な人は、ひとまずホテルに落ち着いている。無理にホロウバスティオンに戻ろうとする様子には見えなかったし、君も気持ちを楽にしてくれたまえ」

「……そ、そうか。ホテルに居てくれるなら、あ、会いにもいけるな」

「アホか。ここには『クラウド』がいるんだぞ。貴様がひょいひょいひとりで外出してみろ。変に思われるに決まっているだろ」

 と、セフィロスは素っ気なかった。

「それよりもいいか。しばらくすれば『クラウド』も起きてくる。貴様はいつもと変らない様子であの子と接するんだぞ。間違っても『セフィロス』と特別な関係にあるなんて悟らせるな」

「わ、わかっている……」

 レオンはどさりとソファに腰を下ろし、深いため息を吐き出した。

「ったく難儀なヤツだな」

「まぁまぁ、セフィロス…… 人を想う気持ちだけは、自身でさえどうにかなるものではない。それにレオンにとっては、初恋にも似たようなものなのだろう?平静で居られるはずがない」

 私は消沈しているレオンが気の毒で、彼を護るような気持ちでそう言った。

「レオン、安心してくれ。ホテルに着いたとき、『セフィロス』は十分に落ち着いていたし、ひとりで勝手な行動は取らないように思う。私も可能なら毎日顔を出して様子をうかがうつもりだ」

「……すまない、ヴィンセントさん。あなたには手間ばかり掛けてしまう」

「ああ、ほらほらお通夜みたいな雰囲気になっちゃって!ヴィンセント、お茶が入ったよ。レオンのは冷めちゃったから淹れなおそうか」

 ヤズーが皆の気持ちを引き立てるようにそう言った。