トライアングル コネクション
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<8>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

  

「ああ、『クラウド』兄さん、目が覚めたの」

 時刻はもう夕方だった。

 ホロウバスティオンの『クラウド』は、よほどの緊張状態にあったのか、一度眠りにつくと、目覚めることなくぐっすりと眠り込んでしまったらしい。

「ごめん……こんなときに、おれ……すっごい寝ちゃったみたい」

 我が家のクラウドが貸してあげた半袖のパジャマ一枚で、ふらりと起き出してくると、頬を染めてそうつぶやいた。

「気を張って疲れていたのだろう。『クラウド』、寒くはないか?コスタ・デル・ソルは朝と夕の寒暖の差が激しいから……」

 私はそう言いながら、クラウドの肩に麻編みのカーディガンを掛けてやった。

「うん……ありがとう、平気。レオンは……?」

「ああ、うちのセフィロスの部屋。もう戻ってくるでしょう。ほら、ソファに座って。お茶淹れるから」

「そういえば……喉が渇いたかな。変な夢みちゃったし」

「いきなりコスタ・デル・ソルに放り出されたわけだからね。疲れているんだよ」

 そう言いながらヤズーが、甘いミルクティーを淹れてやった。『クラウド』の好物なのだ。

「レオン、こっちのセフィロスと話してるの……?」

 なんとなく気ぜわしげに、『クラウド』が訊ねる。

「あの……ホロウバスティオンの『セフィロス』は……?」

 本当はそちらが気になっていたのだろう。震える声で『クラウド』が続けてつぶやいた。

「安全な場所に避難してもらっているが、ここにはいない。不安に思う必要はない」

 私はそう言って彼の肩を叩いた。

「ね、ねぇ、レオンは大丈夫だった?『セフィロス』に何かされたりしなかった?怪我したりとか……」

「落ち着いて、『クラウド』兄さん。そんな心配は必要ないよ。レオンは大丈夫だし、『セフィロス』は今、別の場所に居るんだから」

 ヤズーはわざわざキッチンから出て来て、『クラウド』をなだめた。

 

 

 

 

                                                           

 

「でも……『セフィロス』、おれを連れ戻しに来たんでしょう?」

「ううん、そうじゃないみたいだよ。あの場所に居合わせたのは偶然だって、そう言っていた」

「ホ、ホントに……でも……」

 ヤズーの言葉に不思議そうに瞬きをする『クラウド』だ。

 そんなやりとりをしているところに、レオンと我が家のセフィロスが居間に戻ってきた。

 

「なんだ、起きたのか、『クラウド』。もう少し寝てりゃ、すぐ晩飯だったのに」

 ぞんざいな物言いは、我が家のセフィロスだ。

「セフィロス……レ、レオンも……ふたりで何話していたの?」

 不安な面持ちで訊ねる『クラウド』の髪を、セフィロスがくしゃくしゃと撫でる。

「おまえは何も心配する必要はない。レオンと話していたのは、ホロウバスティオンの状態のことだ。あんな状況で連結作用が起きたんだ。それまでの街の様子など、何か手がかりはないかと思ってな」

「セ、セフィロス……そうか……ご、ごめん、おれ、自分のことばっかり……」

 恥ずかしく思ったのか、彼の、今は青い白い頬に朱が走った。

「別にかまわん。具合があまり良くないのだろう。無理をするな。そら、レオン、『クラウド』の側に行け」

 促されるままに、レオンはソファに座ったままの『クラウド』のとなりに、腰を下ろした。

「レオン……大丈夫?」

 眉間に深いシワを刻んでいるレオンに、びくびくと『クラウド』が声を掛ける。

「……問題ない。おまえに怪我が無くて良かった」

 言葉だけは平静を保ち、レオンがささやいた。

「レオン、『セフィロス』のことだけど……」

「『クラウド』。彼のことは気にするな。俺に任せておけ」

 覆い被せるように、レオンが話を打ち切る。

 その無愛想な物言いに、セフィロスが鼻白んだようにため息を吐く。

 レオンと『セフィロス』の事情を知る我々は、こうしてなんとか『クラウド』をいなしてやり過ごすしかなかったのである。