トライアングル コネクション
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<9>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

  

 彼らがコスタ・デル・ソルにやってきてから、三日が過ぎた。

 私は連日差し入れを持って、『セフィロス』の居るホテルに通い詰め、暇を持て余している彼を誘って、セントラルエリアを散策した。

 『セフィロス』は思いの外、好奇心が旺盛で、青物市場を見て回ったときには、めずらしい果物や菓子などを欲しがったりもした。

 もちろん私にとっても、その時間は珠玉の時間と言っても過言ではなかった。

 

 しかし、ほけほけと喜んでいる私を横目に、レオンは激しいストレスを募らせていたのである。

 

「……も、もう、限界だ。すでに三日も『セフィロス』と会っていない……」

 『クラウド』がヤズーと一緒に庭に出ているのを確認して、レオンは低くつぶやいた。

 居間のソファに前屈みで座り込み、うつむいていた顔を持ち上げたのだ。

「禁断症状だ……」

「レ、レオン……大丈夫か?『セフィロス』は無事だから安心して……」

 と語りかけるが、彼の双眸はうつろなままだ。

「『セフィロス』……」

 口の中で彼の名をつぶやきながら、居間のソファで寝転がる我が家のセフィロスの側に、よろよろと近づいていく。

「なんだ、てめぇ、気色悪い」

 彼は側に近寄るレオンを、しっしっと邪険に追い払う素振りを見せる。 

「もう……もう三日も顔すら見ていないんだ。おい、動かないでくれ。顔を見せてくれ……」

 ……よほど重症の様子だ。

 レオンはセフィロスの肩に手を掛けると、その顔を覗き込むように見つめた。

「キモチワルイって言ってんだろ!」

 どんと遠慮無く突き飛ばすが、レオンも負けてはいない。二三歩よろけたが、ふたたびセフィロスに向かって行く。

 

 

 

 

 

 

「顔が見たいんだ……顔を見せてくれ。それ以上は何もしないから……!」

「たりめーだ!」

 レオンは渾身の力でガシッとばかりにセフィロスの肩をソファに押しつけ、馬乗りのような格好でじっとその顔を見つめる。

「……おい、この体勢は不本意だ。どけ」

「『セフィロス』……」

「オレはあいつじゃねぇッ!おら、蹴っ飛ばすぞ!」

「ま、まぁまぁ、セフィロス。そんなに怒らないで……」

 私は眉間にものすごい縦しわを刻んでいる彼にとりなした。

「か、顔を見せるくらい良いではないか。減るものではないのだし」

「そーいう問題じゃねぇ。どうしてオレがソファの上で、このヤロウに押し倒されなければならないんだ」

 そういうと、セフィロスは強引に上半身をもたげ、覆い被さっているレオンを力尽くで退かせた。

「あー、ったく気色悪ィ。何が悲しくて、てめぇのようなむさ苦しい男にひっつかれなければならないんだ」

「……アンタがあの人と同じ顔をしているからだ。同じ顔……髪……肩、手……あぁ……」

 レオンはこめかみに手を当てると、苦しげに頭を振った。

「なぁ、おい。前々から訊きたかったんだがな。あいつのどこがいいんだ。いや、『クラウド』相手ならばわかる。あの子は可愛いし、おまえより小柄だし、素直そうだし……」

「『クラウド』と『セフィロス』を比較しないでくれ。アンタのいうとおり、『クラウド』のことは大切に思っている。だが、『セフィロス』へ対する気持ちとは抜本的に違うんだ。あの人のことは、何から何まで……容姿や性格はもちろんのこと、その魂そのものまで愛おしくてたまらない。理屈じゃないんだ」

 レオンはそうつぶやくと、焦点のさだまらない瞳で、ふたたびセフィロスを見つめるのであった。