トライアングル コネクション
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<10>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

  

 

 しばらくすると、庭からヤズーと『クラウド』が戻ってくる。

 彼は居間にいるレオンを見つけて、嬉しそうにそのとなりに座った。『セフィロス』との事情を抜きに考えるならば、ただただ微笑ましい光景だ。

 それをよいことに、セフィロスがさっさと席を立ち、ダイニングのテーブルに着いた。茶でもよこせというのだろう。

 

「セフィロス……ちょっと……」

 私は彼に声を掛けた。彼の耳に入れておきたいことがあったからだ。

「あ?なんだ」

「い、いいから、その……君の部屋へ行こう」

 レオンは『クラウド』の相手に気を取られ、我々の会話は聞いていない。

「なんだ、めずらしいな、内緒話か」

 面白そうに言うセフィロスの、背を押すようにして私は居間を出た。もちろん、彼はしっかりと冷蔵庫から飲み物を拝借してからだ。

 

 思いの外、片付いている彼の部屋に入ると、私は念のために鍵を閉めた。ノックもせずに入ってくるような不心得者はいなかろうが、念のためだ。

「おいおい、鍵なんざ締めていいのか?襲われたらひとたまりもないぞ」

「茶化さないでくれ。話があるんだ」

「まぁいい。オレの部屋におまえひとりで来るのは久しぶりだな。ほら、飲め」

 そういうと、彼はひょいと紅茶の缶を放ってよこした。

 私の好みを知ってくれていることに笑みが漏れるが、彼には相談しなければならないことがある。もちろん、『セフィロス』が口にしていたことだ。

 

「セフィロス、大切な話なのだ。真面目に聞いてくれ」

「普段からオレ様が不真面目みてーじゃねぇか。なんだ、例のあいつのことか」

 察しの良い彼は、くいと顎をしゃくってみせた。

「そ、そうだ。『セフィロス』のことで……」

「つくづく面倒を抱え込んだな。おまえがそんなに深刻になる必要はない。うっちゃっとけ」

 ひらひらと手を振って、いいかげん付き合いきれないというようにウンザリとした表情の彼を説得する。

 

 

 

 

 

 

「こんなことになってしまって……彼が……『セフィロス』が、自分はレオンには不似合いだと……そう言っていたんだ」

「は?」

「だから……ホテルまでの道のりを歩いていたとき、自分にはレオンは似つかわしくないと……それきり、その話はしていないのだが、なんだか胸騒ぎがするんだ」

 気の急く思いで、私は早口にそう語った。

「『セフィロス』はああいう人だ。本当にレオンから離れようと考えたら、すぐに実行してしまう。それが本心でなくともだ」

「まぁ、あいつならば可能だろうな」

「『セフィロス』も口には出さないが、レオンのことを想っている。それは間違いないんだ」

「おえぇぇ」

「セフィロス、真面目に聞いてくれ!」

「ああ、わかったわかった」

 ビールをぐいっと煽ると、私をなだめるように手で押さえる素振りをした。

「それで、なんだって?ふさわしくないから離れると言ったのか?」

「ああ、そのようなことを……その……私に告げたというよりも、独り言のようにだが」

「それはそれで、いい話じゃねーか。あいつがレオンから離れれば、『クラウド』は安泰だし、ようは元の鞘に収まるってもんだろ」

「セフィロス……!レオンと『セフィロス』は互いに想い合っているのだぞ!そんなふたりを生木を裂くように別れさせるなど……」

「そもそもレオンが、『クラウド』がいるにも関わらず、『セフィロス』のヤツを好きになったのがいけないんだろーが。いったいどういう趣味かオレにはわからんがな」

「そればかりは……人を好きになる想いばかりは、誰にも止めようがないから……」

 私の言葉は尻つぼみに小さくなるばかりであった。