トライアングル コネクション
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<12>
 
 セフィロス
 

 

   

「なんとも情けないことだな。お人好しとは、ヴィンセント・ヴァレンタインよりもおまえのことなのではないのか?」

 わざわざ足を運んでやったオレ様に、同じツラをした男はいけしゃあしゃあとそう言った。

「わざわざ来てやったのに、なんつーいいぐさだ」

「思ったことを口にしたまでのこと……存外におまえはおせっかいと見える」

 ヴィンセントが用意した、麻のシャツにオフホワイトのスラックスを身につけた『セフィロス』は、どこか育ちのいいお坊ちゃまに見える。

 となると、黒のノースリーブにパンツで着ているオレは、人さらいのように柄が悪く見えるのだろうか。通りがかったホテルのフロントの連中が、物見高くオレたちを眺めていた。

 

「さて……今日はどこへ連れて行ってくれるのだ」

 人の気も知らず、楽しそうに『セフィロス』は言った。

「てめぇはどこのお嬢様だ。わざわざツラを拝みにきてやっただけでもありがたいと思え」

「致し方が無かろう。私はこのあたりには不案内なのだ」

「……この時間じゃ、ノースエリアのクラブってわけにもいかないしな」

 オレにはいきつけのクラブがある。そこのオーナーは愛人だ。以前にも一度、こいつを連れていったことがあった。

「では、青物市場に連れて行ってくれ。あそこは面白い物がある」

 意外なことを『セフィロス』は口にした。

 その名のとおり、青空の下で開かれている生鮮食品などの市場である。ヴィンセントなどは好んでよくその場所で食材などを手に入れるようだが、オレにとっては馴染みの場所ではない。

「……別にかまわんが。暑いぞ」

「今の時刻ならば、良い風が吹いている。果物でも買って食べて歩けばよいではないか」

 どこか楽しそうにヤツは言った。

 

 

 

 

 

 

 オレたちはホテルからさほど離れていない青物市場に足を向けた。

 そこでザクロを買い、囓りながら、ふらふらと冷やかしに歩く。

 

「……『クラウド』はどうしてる」

 ヤツがオレに訊いた。

「ウチで大人しくしている。少し落ち着いたようだ」

「……そうか」

 どうでもよさそうに彼は頷いた。

「レオンのことは聞かないのか?」

 オレがそう言うと、

「『クラウド』が落ち着いているんだろう。だったら、大人しく側に居てやっているのだろう」

 と、つぶやく。

 ちらりと横顔を盗み見るが、特に表情は変らない。

「……おまえに会いたがって、死ぬほど悶えている。『クラウド』の手前、そんな姿は見せないように言っているがな」

「そうか」

 やはり、『セフィロス』は感情を見せない。レオンの有様に鑑みると、ずいぶんと薄情にも見える。

「おまえ、ヴィンセントに言ったそうだな。自分とレオンは不釣り合いだと。別れようって話なのか」

「……もともと『クラウド』が居たのだ。私は邪魔者だろう」

 人ごとのように『セフィロス』は言った。

「だからオレが言っただろう! ならば最初からレオンなんざ相手にすんな! 今、おまえに目の前から消えられたら、自害しかねないいきおいだぞ!」

「レオンが……?ふふ、それはまた好かれたものだな」

「面白がるな。冗談事じゃないんだ。ヴィンセントは必死でおまえたちふたりの仲を取り持つように言うし。この上なく面倒なことになっているんだぞ!」

 カリリと『セフィロス』が、ザクロを囓る。

 薄い唇が朱に染まって、まるで血を啜ったかのように見えた。