トライアングル コネクション
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<15>
 
 セフィロス
 

 

   

「では、私は帰る」

 翌日、ヴィンセントと共に、ヤツの根城に足を運んだ際、『セフィロス』はあっさりとそう言った。

「安全な時空のつながりが出来たのか」

 と、訊ねる。

 海岸沿いに、よじれたように現われたホロウバスティオンの風景は、すでに消え去っていたからだった。

「同じ海岸沿い……ここからそう遠くはない場所だ」

「で、でも、何もそんなに早く帰らずとも……私たちもまだ君と話したいこともあるのだし……」

 案の定、ヴィンセントがそう言って止めに入るも、彼は淡い笑みを浮べただけであった。

「私ならば、いつでもこちらと行き来ができる。このホテルの宿泊費まで負担してもらっているのに、これ以上の長居はできない」

 『セフィロス』にしては、めずらしくも、まともな発言をした。

「そ、そんなこと……」

「今度はゆるりとおまえたちの家に滞在できる日に来よう」

「『セフィロス』……」

 尚もヴィンセントが、何かを言い募ろうとしたが、オレはそれを止めた。

「まぁいいじゃねーか。帰るってのを無理に引き留めるのもなんだろ。こいつの能力があれば、またいつでも顔を見せに来られるんだからな」

「…………」

 ヴィンセントは思案顔でうつむいた後、顔を上げた。

「レオンとのことは……大丈夫だな?今回の一件で、彼を見限るような真似だけはしないで欲しい。彼の親しい友人として頼む」

 お人好しが頭を下げる。

「人ごとだというのに……相変わらずのおせっかいだな」

 不快そうにではなく『セフィロス』がつぶやいた。

「……レオンがまだ私を必要としているのなら……側にいることもできよう」

「レオンは君を心底想っている。だから……!」

「わかったわかった。……だが、ヴィンセント・ヴァレンタイン。私のことはよいが、おまえもせいぜい身辺には気を付けることだ」

 ちらりとオレを見ると、意地悪そうにそう言った。

 

 

 

 

 

 

「私の……?私は別に何も……」

「そう思っているのは、存外本人だけかもしれんぞ」

「よせ、くだらん。コイツはくそ真面目なんだ。貴様の戯れ言を、延々と考え込むような男につまらんことを言うな」

 オレは思案顔のヴィンセントを後ろに退かせて、そう言ってやった。

「おまえもだ、セフィロス。何もお人好しなのは、ヴィンセント・ヴァレンタインばかりではなさそうだな」

「うるせー、黙ってろ」

 悪態をついてやると、ヤツは皮肉そうな笑みを浮べ、口角をくっと持ち上げた。

「何にせよ、私はこれで消えよう。後のことはよろしく頼んだぞ」

「まったく迷惑きわまりないな、てめぇらは。いいからさっさと行っちまえ」

「『セフィロス』……絶対にまたここに……コスタ・デル・ソルに遊びに来てくれたまえ。我が家の住人たちは皆、君を待っている。どうか元気で……」

「……おおげさだな。では私はもう行く。見送りはここまででけっこうだ」

 そう言い置くと、彼はひとりで砂浜を歩いていった。

 一度も振り返ることなく歩み去るその様を、ヴィンセントは身じろぎ一つせずに見守っていた。