トライアングル コネクション
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<16>
 
 セフィロス
 

 

   

「か、帰ったというのか?たったひとりで……?」

 青ざめた顔で、レオンが聞き返した。

 困惑した面持ちになるヴィンセントを、脇に退かせ、オレが応対する。

「いいかげん、退屈したんだろう。あの男には、時空のゆがみとやらが見えるらしいからな。ついさっき、さっさとひとりで戻っていったぜ」

 レオンは、血相を変えて、椅子から立ち上がり、玄関に続く扉を開こうとする。そんなヤツをオレは片手で止めた。

「落ち着け。おまえは『クラウド』と一緒に帰るんだ。もうしばらくしたら、ジェネシスに時空のゆがみを見つけてもらう」  

「……ッ、どうして……教えてくれなかったんだ」

 顔をゆがめてレオンがつぶやく。

「『セフィロス』が先に帰るってことをか。言ったら、今みたいに血相を変えて、後を追おうとするだろうからだ、ボケ」

「……結局、ここに来てからは一度も会えなかった。会って……誤解を解きたかったのに」

「別にヤツは何も誤解してなんかいないぞ。おまえが来られないのも、『クラウド』がいるからだってちゃんとわかっているしな」

 ずけずけと言ってやると、オレをキッとにらみつけた。

「『クラウド』の目を盗んで、会いに行くつもりだったんだ。アンタが無理に止めたんじゃないか!」

「あたりまえだろ。『クラウド』はおまえべったりだ。不審な行動をとれば、すぐにバレる」

「だからといって、『セフィロス』ひとりを放っておくつもりなどなかったのに……!」

 そのことがひどく悔やまれるのか、歯噛みする勢いでレオンが叫んだ。

「レオン……彼は、ひ、ひとりで放っておかれたとは考えていない。私やセフィロスも足繁くホテルまで通ったし、話し相手になった。君が心配していることも伝えてある」

「ヴィンセントさん……」

 励ますようなヴィンセントの言葉に、レオンがうっそりと顔を上げた。

「……早く、ホロウバスティオンへ帰りたい。『セフィロス』のところへ行かなければ」

「だ、大丈夫、すぐだ。ジェネシスに協力してもらえれば、すぐに戻れるから。君は『クラウド』のことをよろしく頼む」

「わかっている……『クラウド』のことはちゃんとする」

 レオンはそう言って何度も頷き返した。

 

 

 

 

 

                                                                         

「……なんだ、話とは」

 憮然とした様子で、レオンが言った。

 レオンらを帰す前日の夜、オレはヤツを部屋に呼んだのだ。

 『クラウド』らはすでに寝静まった夜中だ。

「話ってほど大げさなもんじゃないがな。まぁ、座れ」

 そう言って、ソファへ促した。

「おまえもやるか?」

 酒のビンを見せるが、レオンは頭いを振ってどっかりとソファに腰掛けた。

「……また、説教か。『クラウド』のことはちゃんと面倒を見ると言っただろう」

 オレが何か言う前に、レオンは自分から口を開いた。

「別に疑っているわけじゃないさ。だが、今、貴様はまともに前が見えていないような気がしてな。『クラウド』の味方のオレとしては、くれぐれも冷静さを失わないようにと、忠告しておきたかった」

「……忠告は聞いた。それじゃ」

「まぁ、座ってろよ。説教なんざオレの柄じゃねぇ」

 オレの言葉に、レオンは物言いたげな表情をしたが、素直に腰を下ろした。

 

「それにしても、おまえがここまで、あの男に入れ込むとはな……」

「気がついたら、そこまで好きになってしまっていた。もうどうしようもないんだ」

 レオンは有無を言わさず、そう断言した。

「……だが、おまえが想っている以上に、『セフィロス』のほうも強い感情を抱いているんだろうよ」

「それはわからない……いつも俺のほうからばかり会いに行っているから」

「……おまえが来るのを大人しく待っているんだろう。言っておくが、『クラウド』以上に、厄介な相手だと肝に銘じておけよ」

「どういう意味だ」

 レオンが不快そうに聞き返してきた。

「嫌になったから、飽きたからといって、簡単に捨てられるなどと思うな。ひどく面倒な相手だぞ」

「バカなことを言うな。俺が彼をそんなふうに思う日が来るはず無いだろう。アンタは見当違いの心配をしている」

 レオンは聞く耳持たずに、オレの発言をあっさりと却下したのだった。