うらしまクラウド
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<16>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 
 

 

 

「……どうした?」

 宥めるように髪を撫で、低く訊ねる。

「あ……う、ううん……」

「なんでもないというツラではないぞ。真っ青だ」

 ベッドライトに浮かび上がった、小さな顔は、そうとわかるほどに青ざめていた。思ったことをハッキリと告げてやる。

「……あ……うん……」

「……クラウド?」

「……嵐……イヤなんだ……背中、寒くなるみたいに……怖くて、落ち着かなくて……」

 ギュッと背を丸め、オレにくっつくクラウド。

 

「……嵐の日……セフィロス……怖かったから……何なんだろう……いつも痛いことするけど……風が吹き荒れてたり、雷雨のときとか、なんか普通じゃないほど……」

「…………」

「こういう夜だと、『セフィロス』、気が高ぶってたのかな……風の音が悲鳴みたいで……雨の音も、泣き声みたいに聞こえて……」

「ハ、天候に左右されるなんざ、お笑いだな。女じゃあるまいし」

「……落ち着いているときは、横顔なんか、女の人以上に綺麗だったよ、『セフィロス』は」

 そういって、少し自慢げに『クラウド』は微笑んだ。

 『セフィロス』を怖い、恐ろしいと忌避しつつも、どこかに想いが残っているのだろうか。オレがヤツの悪口を言うと、さりげなくかばう『クラウド』であった。

 

 カッ……ガッ……ガガガガガァァァン!

 閃光が暗雲を裂き、地上に落ちる。一瞬あたりを眩いばかりに照らし、激しい轟音を伴い消滅していった。

 

「…………ッッ!」

「フ……大丈夫だと言っているだろ」

「……う、うん」

「おまえ、自分の世界に帰っても、嵐の度にビクビク身を潜めているのか?」

 からかうようにそう言ってやった。

「そ、そんなことないよ……だって、ここの嵐って……ものすごく……」

 

 ガッ……ガガガガガァァァン!

 

「あぁッ! ほ、ほら……すごいもの……ホロウバスティオンはここまでヒドイのって……あんまし、ないし……」

「やれやれ『レオン』も大変だな」

「……ま、まだ……嵐では迷惑かけてないもん……」

「おまえな。なにか苦手なものがあったり、どうしても我慢できないことがあるなら、それにぶつかって身動き取れなくなる前に相手に伝えろ。そのとき側に居る……だれでもいい、オレでも『レオン』でも、すぐ近くにいる人間に事情を話しておけ」

 金の髪を撫でつつ、言い聞かせる。

 

「……セフィロス?」

 びくびくと顔をあげる『クラウド』。

「おまえにとっては、恐ろしくてひとりでは対処できない状況でも、案外他の人間にとっては、どうとでもなることだって多いはずだ」

「……う、うん」

 ギュッとローブの襟元を、『クラウド』の指が握りしめてきた。

「……この嵐だってそのひとつだ。ひとりで耐えることができないなら、事前にオレに言え」

「……うん」

「オレは約束は守る。おまえを元に戻すまでは、『独りにはしない』」

「セフィロス……オレ……」

 

 吸い込まれそうな蒼い瞳が、不思議な輝きを点してオレを見つめる。

 ……白くて小さな顔……幼さの残る整った少年の顔……

 

 オレの中で時が戻る……そう、初めて15才の『クラウド』を愛したときを思い起こさせる……

 

(……セフィロス……)

 桜色の唇がオレの名を綴る。

 つややかな……少しツンと膨らんだ可愛らしい口が、オレの名を呼ぶ。

 

「……セフィロス……」

 彼がもう一度、そう繰り返した。

 

 唇を重ねたのはどちらのほうからだったのだろう。

 

 パジャマの袖口から、すべらかな腕が伸び、オレの肩にしがみついてくる。そんな仕草に応えるように、オレは熱のこもった白い身体を組み敷いていた。

 しなやかな筋肉のついた、それでもやはり細身で引き締まった身体を……

 

 ああ、今思い起こせば、外の嵐……そしてあの子と同じ『クラウド』を前に、いささか夢見心地になっていたのかもしれない。だが、アタマの半分は、しっかりと覚醒していて、この子が『あのクラウド』ではないこと、そして外の嵐にひどく怯え、普通の状態でないことを認識していた。

 

「……んッ……」

 何度も唇を重ねた後、歯列を割り舌を進入させる。

 『クラウド』の甘い口腔を存分に味わっていると、彼の薄い舌がオレの愛撫に応えてくれた。そっと舌先を絡ませ、より動きやすいよう、オレの進入を妨げないよう気遣う。

 湿った音が静かな空間に流れ、ずいぶんと時間を掛けて、オレたちは濃密な口づけを愉しんだ。

 

「……んッ……は、ぁ……」

 ようやく唇を解放してやると、彼はすぐに息継ぎをした。

「……は……はぁ……セフィ…ロス?」

「ふふ、頬が真っ赤だな」

「……セフィロス……やっぱりキス上手だね……」

 息を弾ませて『クラウド』はささやいた。

「なんだ、その『やっぱり』というのは……フフフ……」

「あ、ご、ごめん……なんとなく……」

「ふ……まぁいい」

 パジャマのボタンに指をかけ、ゆっくりとじらすように外してゆく。

「……あ……」

 徐々にあらわになってゆく白い肌の美しさを愛で、オレは誉めてやるような気持ちで喉元から、胸へ唇を滑らせた。所々やわらかく啄んでゆくが、もちろん、痕をつけるような愚行はしない。

 

「……んッ……セフィ……もう一回……して?」

 前ボタンをすべて外され、何の意味も無くなった上着を腕に絡ませたまま、『クラウド』は二度目の口づけをねだってきた。

 促されるままに唇を重ねる。

 彼の腕が、おずおずとオレの首に回される。白い肌が淡く息づき、触れた胸もとがトクントクンと鼓動していた。