うらしま外伝
 
〜招かれざる珍客〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<1>
 
 ラグナ・レウァール
 

 

 

  

 

「あの……今、何とおっしゃいました?」

「マジすんません。お金ないんス」

 俺は正直にそう告げた。俺……こと、エスタの大統領、ラグナ・レウァールは無銭飲食の謝罪のために心の底から頭を下げる。

「ホント、マジすんまっせん!」

「……はァ……」

「あ、あの、ゴールドはあるんスけど、ギルっつーの?それは持ってなくって……」

「ゴールド?」

「あ、いえ、ホント、スンマッセン。悪気はなかったんデス。でも、腹減っちゃって、このままじゃ行き倒れになるかなっつーか、そんな感じで」

「……あ、はァ」

 黒髪をした、整った顔立ちの支配人が困惑したように吐息した。いや、呆れきっているのかも知れない。そりゃそうだろう。さっきまで注文した品を目の前で威勢良く食っていたオッサンが無一文だと打ち明けているのだ。

 場末の店でこんな状況になると、怖い兄さんたちに囲まれるハメになるわけだが、俺の選んだこの店は、いわゆるそういう類の場所ではなく、趣味人の集う高級店であったのだ。

 そのわりには良心的な値段だと言えよう。だが、良心的だろうと何だろうと俺のポケットにはこの場所では使えないカードとゴールドの入った財布。一応そいつを見せてみたが、彼は綺麗な眉を顰めただけであった。

 

「はァ、ご事情はわかりましたが…… 通貨が使えないことは店に入る前にわかることでは……」

「いや、もうだからね! このままじゃのたれ死ぬしかねーってそんな状況で! この場所暑いし…… 右も左もわかんないしさ〜。もしかしたら、あー、逢えるかもしれないってそう思ってたんだけど……そりゃ甘いよなァ」

「逢えるかも……とは?」

「えー、いや、だから……」

 説明に窮して言葉が続かない。

 無銭飲食された立場の彼には、俺を咎め立てる権利があるというのに、頭から怒鳴りかかったり、即座に警察に引き渡したりはしなかった。

 そういう人だからこそ、何とか今の俺の状況を説明して、心からの感謝と謝罪を述べたいところなのだが……夢物語りのような時空間移動なんて理解してもらえるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 エスタでの別れ際……『セフィロス』は言っていた。

『不幸にも時空の狭間に飲み込まれ、見たこともない南国の島に放り出されたとしたら……』

 夢見るような微笑を浮かべ、そのまま言葉を続けたんだ。

『……常夏の島で、私と似た男を捜すがよい。口はよくないが悪い男ではないようだ。……その傍らに、黒髪の男が居れば、尚のこと幸いだろう。ヴィンセント・ヴァレンタインは無口で内気な青年だが、やさしく面倒見がよい……』

 きっと『セフィロス』は冗談で言ったのだと思う。

 彼自身が不思議な体験をしてきたのは疑うべくもないが、そうそう起こることではないと言っていたし、人ひとり異空間に飛ばすほどの大きなものが発生するものでもないと。

 ましてや彼のいう異次元の場所に、都合良く飛ばされることなど万にひとつだと思っていたのに……

 仮に今の状況が、本当に『セフィロス』の言っていた異次元に飛ばされたのだとしても(いや、現状認めざるを得ないのだが)、南の島はいくつもあるだろうし、こちらの世界のセフィロスとヴィンセント・ヴァレンタインという人に運良く巡り会えることなど……まるで砂漠の中でたったひとつの砂の粒を捜し出すのに近いのではないかと感じる。

「はァァァ〜……」

「……あの、ため息を吐きたいのはこちらなのですが」

 綺麗な支配人さんが苦笑混じりにそう言う。まったくだ。

「そ、そうだよね。ホント、マジすんません。い、行くトコないし……金もないし、いっそ身体でお返しを……」

 背に腹は替えられぬ!そんな悲壮な決心からの発言であった。言葉を続けている時、俺の視界に信じがたいモノが飛び込んできたのだった。

 

 それは……