IN Wonderland
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<2>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「フハハハハ!ああ、傑作だ!なるほどな、おまえも男だもんな。未知の世界への扉があれば、開けてみたくなるのも人情ってヤツだ」

「ちょっと、セフィ、茶化すなよ!それだって、危ないよ、ヴィンセント。ホロウバスティオンに行くには時空のゆがみを見極めなくちゃならないんだから。下手なゆがみに足を踏み入れたら、どこに持っていかれるかわからないんだよ?」

 すでに二回、あちらの世界へ言ったことのあるクラウドが、眉を顰めてそう言った。

「わ、わかっている。だからジェネシスに頼んでみようかと……」

「ああ、なるほどね、それでジェネシスと同行しようかと考えたんだ」

 ヤズーが何度も頷いた。

「あ、ああ、ジェネシスに場所を教えてもらって、私一人で行ってみようかと……あちらの世界のレオンたちにも会いたいし……レオンの世話になるのかと考えると、大人数で押しかけるのは好ましくないだろう?」

「それは……ヴィンセントらしい配慮だけどさ」

 まだ納得いかないように、クラウドが口を尖らせた。

「あのさ、ホロウバスティオンって、異世界なんだよ。みんな軽々と行き来しすぎ。あっちの世界の『セフィロス』は、かなり正確に次元のゆがみを感じ取れるみたいだけど、常に危険は伴ってる。ヴィンセントも少しは時空のゆがみを感じられるのかも知れないけど、その程度じゃ危ないよ。絶対ひとりでなんて行かせられない」

 頑ななまでに言うクラウドを、セフィロスがからかった。

「まぁまぁ、いいじゃねーか。コイツがひとりで、異世界に行きたいなどと言い出すのは、なかなかの進歩だと思うぜ」

「まぁ、セフィロスのいうこともわからなくはないけど……でも、やっぱり俺も心配だよ。レオンたちがいるとはいえ……前にセフィロスとジェネシスが行ったときにも、結局面倒事に巻き込まれたみたいだし」

 慎重に言うヤズーに、セフィロスが

「ああいうのは『冒険』っつーんだ」

 と訂正した。

 

「とにかく、ヴィンセントひとりでっていうのは却下!どうしてもというんなら、俺が着いていくから」

 そう言い切るクラウドに、私は頷き返した。私と……もうひとりくらいなら、大丈夫だろう。クラウドならば二度もあちらの世界に行っているのだから勝手もわかっていようし。

 

 

 

 

 

 

「では……クラウド、同行してくれるのか?」

「もう、あったりまえじゃん!だいたいさ、ふたりっきりで旅行なんて、これまででも無かったんだから、今回こそは俺たちだけで行こう!」

 力強くそう言うクラウドに、ヤズーがため息を吐いた。

「まぁ、兄さんがそう言うなら、無理に引き留める理由はないよね」

「す、すまない、ヤズー。心配してくれるのはとてもありがたいのだが……今度こそ、私も外の世界を見てみたいのだ」

 レオンや『セフィロス』の顔を思い起こすと、その念がより一層強まる。

 以前セフィロスが、『男ならば未知の世界に惹かれるのは当然』だと言っていた。私も一応男の端くれだったということなのだろう。まだ見ぬ風景に、心は急き、胸が躍るのであった。

 

「言っておくけど、ジェネシスは一緒に行かせないよ」

 と、クラウドが言った。相変わらず、ジェネシスに対しては容赦のない彼だ。

「ああ、おまえが同行してくれるならば、わざわざ彼を誘い出す必要はないだろう。迷惑かも知れないし」

 私がそう言うと、クラウドはますます眉を吊り上げて、

「迷惑なはずないじゃん!俺が居なかったら喜んでしっぽ振って一緒に行こうとするよ。もう、ヴィンセントってば、もっと気をつけてよね。俺、気が気じゃないよ」

 怒ったようにそう言ったかと、思うと、今度は蕩けるようにやに下がった。

「でも、ヴィンセントと二人っきりで旅行なんて初めてだよね~。うんと楽しんでこようね!」

「ああ、ホロウバスティオンという街をよく見てこよう。レオンたちに協力できることがあれば、手を貸してやらなくては。セフィロスやジェネシスのような活躍はできずとも、何か彼らの世界に貢献できるといいな」

 そう言った私に、ヤズーがため息混じりに告げる。

「冒険はいいけど、ふたりとも十分気をつけてよね。言っておくけど、安全な空間のよじれがなければ行けないんだからね」

「わ、わかっている。すまないな、ヤズー、勝手なことを言って」

「いいよ、ヴィンセントは普段はまるで自分のことは言わないんだから。兄さん、ちゃんと彼を守るんだよ。わかってると思うけどね」

 その言葉に、クラウドがぐんと胸を張る。

「わかっているに決まってるじゃん!俺は命をかけてヴィンセントを守るぜ!」

「あんまり調子に乗って、ずっこけるなよ。まぁ、向こうにはレオンがいるから、そう心配はないだろうが」

 セフィロスが突っ慳貪にそう言った。

「セ、セフィロス。な、なるべく早く帰るから。勝手を言ってすまない……」

「好きにしろ。まぁ、おまえも男の端くれだったってことだろ。ただし、向こうの世界のハートレスやノーバディには気をつけろよ。おまえにとっては未知の敵だからな。油断するな」

「わ、わかった」

 そうセフィロスに激励されて、私たちは旅立ちの日を待つことになった。