IN Wonderland
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<3>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「チョコボっ子、おまえもなかなかひどい子だよねぇ。俺の女神への気持ちを知っていながら、こんなことに協力させるなんて」

 そういって両手を広げ、頭を軽く振ったのはジェネシスだった。

 彼はこちらの世界で、唯一はっきりと空間のよじれを感じ取れる感性の持ち主だ。

「す、すまない、ジェネシス。迷惑を掛けて」

 私がそう謝ると、ジェネシスは私の手を取って、自身の頬に触れさせた。

「女神、決して危険な真似はしないと約束して。でなければ、私は君たちの後を付けて行かなければならなくなってしまうよ。必ず無事に戻ってくると誓ってくれ」

「も、もちろん、そのつもりだ。今回の旅は私の好奇心によるものなんだ。君たちがホロウバスティオンという異世界に行ったことがうらやましくて……まだ、私は一度も行ったことがないから……」

「……だから、経験者のチョコボっ子を連れて物見遊山に行くのかい?言っておくが、あちらの世界にもモンスターはいるんだよ。ハートレスとノーバディ……」

「ハイハイ、そんなことはとっくに知ってるし、ヴィンセントにも話したよ。だいたい俺が一緒に行くんだから、ヴィンセントを危ない目に合わせるはずがないだろ!」

 クラウドが私をかばうようにジェネシスの前に出て、つんけんと彼に当たる。

「チョコボっ子、本当に頼むよ。ヴィンセントに怪我なんてさせたら……」

「だから、させないって言ってんの!そんなことより、早く移動場所教えて。みんなも見送りに来てくれて居るんだから」

 ……そうなのだ。

 わざわざセフィロスまでも、私とクラウドの旅立ちを見送ってくれる。きっとヤズーが何かを言い含めたのだろうが、彼らが皆で私たちを送ってくれること自体はとても嬉しいことだった。

 

「ほら、ここだよ。足を踏み入れれば、ホロウバスティオンのある世界へ移動できる」

「……風の対流を感じる。なるほど、この場所なのだな」

 そう言った私に、ジェネシスは

「君も感じ取る感性はあるようだね、女神。だが、油断しないで、ゆっくり前に歩くんだよ」

 と告げた。

「で、では皆、行ってくる。見送りありがとう。ヤズー、皆を頼む。セフィロス……その……あの……」

 『ずっと家で待ってて欲しい』『どこにも行かないで』と続けるのはあまりにも身勝手な言いぐさのようで、私は言葉を続けられなかった。

 だが、彼はそれを察したのか、

「わかったわかった。まぁ、気をつけて楽しんでこい」

 とだけ言って、私とクラウドを見送ってくれたのであった。

 

 

 

 

 

 

 時空のひずみに足を踏み入れたのは初めてだった。

 身体が空に浮かび、どこか遠いところへ延々と飛ばされる感じだ。ものすごいスピードであろうはずなのに、風の抵抗をまるで感じない。

 

 ほんのわずかな間隙の後、私は……いや、私たちは不思議な風景の世界に飛ばされてしまった。

 

「よーし、ホロウバスティオン到着~。ジェネシスのヤツ、むかつくけど、目算は信用できるな」

 失礼な発言をするのは、もちろん、傍らにいるクラウドだ。

「ヴィンセント、どーお?ここがホロウバスティオン……レオンたちの住む世界だよ」

 クラウドが座り込んでいた私に手を差し伸べてそう言った。

「まるで……物語の中の世界のようだな……あちらに見えるのは城か?気温も低いな……」

「大丈夫? ヴィンセント、寒くない?」

 自分は平気でノースリーブを着ているクラウドに、そう訊ねられる。

「いや、大丈夫だ。……さて、クラウド。まずは泊まれる場所を探そう。っと、その前に両替をしなければ……」

 細かなことが気になる私に、クラウドが豪快に言った。

「ハハハ、へーきへーき。とりあえず、レオンち行って何か食べさせてもらおう。冒険をするんでもまずはそこからだよね」

 ぐいぐいと腕を引っ張られる。

「そんな……いきなり行ってはレオンに迷惑を……」

「大丈夫、気にしないで!」

 家主のように彼が笑う。

「ヴィンセントが遊びに行ったら、レオンも、こっちの世界の『クラウド』も喜ぶと思うよ」

「そ、そうだろうか……だったらいいのだが……それから『セフィロス』にも会いたいものだ」

 ずっと考えていたことを口にした。誰よりも強いであろう彼の身を、私ごときが案じるのはおこがましかろうが、どうにも彼には放っておけない雰囲気がある。

 レオンがついているのなら安心だろうが、彼がこちらの世界の『クラウド』と生活しているからには、年がら年中つきっきりと言うわけにもいくまい。

「『セフィロス』にも会えるよ。たぶん、あのお城にいるんじゃないかな。でも、今はまずレオンちでひとやすみだ」

 クラウドに促されるまま、私は見たこともない不思議な街に歩み出したのである。