IN Wonderland
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<4>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「街並みも建築物も……まるで物語の中に出てくるような雰囲気だな」

 私がそう言うと、クラウドがなぜか手柄顔で口を開いた。

「いい場所でしょ~、街の中ならば、ハートレスやノーバディも少ないし、ちょっと滞在したくなるよね」

「先にホテルを探した方がよいのではないか?レオンの家に泊めてもらうことを前提でいては、さすがに迷惑では……」

「いいって、いいって、大丈夫。客間も書庫もあるんだから。それより、ヴィンセントのマント姿、久々に見た。レオンが驚くかも知れないね」

 どうでもいいことを口にすると、妙に楽しそうに笑う。クラウドが言うにはふたり旅が楽しくて仕方がないそうだ。

 

「あ、ヴィンセント、下がって!」

 クラウドが背の剣を引き抜くと、広場の隅からまろびでた黒い影に向かった。

「な、なんだ、これは……もしかしてこれが……」

「そう、ハートレス。人間の心を失ったモンスター。強くはないけど、群れて襲ってくるから蹴散らさないと!」

 そういうと、もろもろとあふれ出てきた黒い影に剣を下ろした。

 ハートレス……と言われたモンスターはあっけなく消滅する。

「……なんだか、可哀想だ……」

 私の言葉に、クラウドが手を振って、

「ダメダメ、そんなこと言ってちゃ。ハートレスは『心』が欲しくて人間を襲うんだよ。ちゃんと追い払って」

「心を求めてなど……哀れではないか」

「もう、ヴィンセントってば、すぐに同情するんだから。こんな雑魚ハートレスはどうでもいいけど、ノーバディには強いのもいるからね」

 クラウドはそう言って指を立てた。しっかり聞いてくれというのだろう。

 

「ほら、ヴィンセント、こっちの道。レオンの家は街中からちょっと離れているんだ」

「そうか……もうしばらく街の散策を楽しみたい気もするが」

 ハートレスというモンスターは哀れだが、このおとぎの国のようなホロウバスティオンには、なぜか似合っていると感じる。

 どこか切ない、泣きたくなるような哀愁を感じさせる世界なのだ。

 ざくざくと先を歩くクラウドに追いついて、私はレオンの住む家に向かっていったのである。

 

 

 

 

 

 

「チュース!」

 どんどんと扉を叩き、返事がなかなか返ってこないと知ると、クラウドは勝手にドアを開けてしまった。世代の違いなのか、単に性格の問題なのか、こういった不躾な態度に、私はなかなか慣れない。

「ク、クラウド、勝手に扉を開くなど……」

「だってピンポンがないんだもん。レオンいないのかな。城にでも行ってるのかな?チュース!ごめんくださーい!」

 すると、

「はーい」

 と聞き慣れた声が返ってきた。

 当然だ、返事をしてくれたのは、同じ『クラウド』であったのだから。

 

 現われたこちらの世界の『クラウド』は、昼寝でもしていたのだろうか、髪の毛がぴょんと逆立っており、目を擦りながらやってきた。

「なに寝ぼけてんだよ、久しぶりじゃん、『クラウド』!」

 と、私の世界のクラウドが、ほったらかしになっていた彼の手を握って、ぶんぶんと振った。

「うわっ……びっくりした、同じ顔なんだもん」

「だから、寝ぼけるなって。ほら、ヴィンセントも一緒なんだよ。今日はレオン居ないの?しばらくここに泊めて欲しいんだけどさ~」

「ク、クラウド……!」

 と、たしなめようとしたところ、ふたりが私の顔を見て

「はい」

 と返事をしてしまった。

「あ、い、いや、うちのクラウドのほうだ。いきなりやってきてそんな不躾なお願いをするものではない」

「ヴィンセント、久しぶり~!大丈夫だよ。空いてる部屋あるし、この前はそっちのセフィロスとジェネシスが来たんだから」

 人なつこい笑みを浮べて、『クラウド』がそう言ってくれた。

「なにか手みやげでも持ってくるのだったな。なにしろ私は時空を超えるのは初めてで……慌ててしまって……」

「相変わらずヴィンセントは、気遣いさんだなぁ。もうしばらくしたら、レオンも戻ってくると思うよ。お茶でも淹れるから座ってて」

 そう言って居間に案内してくれた。

「『クラウド』、なんか食べるもんないの?三時のおやつまだだし」

 どこまでも不躾に、我が家のクラウドが要求を述べる。

「ええと、レオンが焼いたスコーンがあるから、紅茶と一緒に持ってくね。あ、ヴィンセントって、紅茶で良かったよね?」

 と、丁寧に訊ねられて、私は慌てて席を立った。

「その……なにか手伝おう。いきなりやってきて、茶菓子など出してもらうのは心苦しい」

「そっちのクラウドは何とも思ってないよ。ヴィンセントも座ってて、俺、紅茶は上手に淹れられるんだよ、レオンに習ったからね」

 そういうと、『クラウド』は私をソファに押し戻し、鼻歌交じりでキッチンに立つのであった。