IN Wonderland
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<6>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 結局、夕食作りは私に任せてもらって、レオンにはテーブルメイクをお願いした。

 温かなポトフで腹を膨らませると、大分気が楽になってきたのか、レオンや『クラウド』から、我が家の住人たちへの話題がふられた。

「……しかし、よくホロウバスティオンに来ることを許してもらえたな。クラウドはともかくヴィンセントさんがだ」

 レオンが食後の茶を楽しみながらそう訊ねてきた。

「クラウドが同行してくれると言ってくれたから、ヤズーも納得してくれたし……その、セフィロスは笑ってた」

「笑って?」

「あ、ああ、『おまえも男の端くれだったな』と言って……」

「シツレーだよね!セフィはほんと失礼。まぁ、止められたりしなかっただけよかったけど。俺とヴィンセント、ふたりで旅行するのなんて初めてなんだよ。いつもいつも家の連中がくっついてくるからさぁ~」

 クラウドが頬を膨らませてそう言った。

「セフィロスやジェネシスのような『冒険』はできなくとも、私にとってはホロウバスティオンに来られただけでも嬉しいんだ。君たちの顔を見ることができた」

 レオンと『クラウド』にそういうと、『クラウド』のほうが頬を赤らめて

「なんか照れちゃう」

 と言って笑った。

「ま、そんなわけで、今晩泊めてくれよな。俺とヴィンセント、同じ部屋でいいからさ」

 図々しい申し出は、もちろん我が家のクラウドであった。

「い、いや、ホテルを探しに行くつもりなのだ。長くなるかも知れないし」

 と、私は慌ててそう言ったが、レオンに止められてしまった。

「広い家ではないが、ふたりの寝場所くらい用意できる。長くなりそうなら尚のこと、ここに泊まっていってくれ」

「だが……いいのだろうか。迷惑じゃ……」

「ヴィンセントさんは気を回しすぎる。あなたならば迷惑どころか大歓迎だ」

「そうだよ、レオンのいうとおり。ヴィンセントもクラウドもここに泊まっていけばいいよ」

 と、もうひとりの『クラウド』にまでそう奨められ、ここは素直に頷くことにした。

「家事を手伝わせてもらえるなら、お言葉に甘えるとしよう」

 私はそう言うことで、この家をホテル代わりに使わせてもらう代金にするつもりだ。

 

 

 

 

 

 

 さっそく夕食後の片付けに、私はキッチンでレオンのとなりに立った。

 クラウド同士は、のんびりテレビでも見ていてもらう。そのほうが内緒話をするのに、都合がよいからだ。

 

「すまない、ヴィンセントさん、洗い物など手伝わせて」

 レオンが恐縮したように、そう言う。

「まったくかまわない。それにさっきも言っただろう。ここに泊めてもらうのならば、家事を手伝わせて欲しいと」

「……あなたは相変わらずだな」

 そう言ってレオンがクスッと笑った。だが、そんな顔も、疲れた様子で痛々しい。

「……レオン、忙しいのはわかるが無理をしすぎなのではないか。再建委員の仕事というのはそんなにも過酷なのだな」

「え……ああ……いや、今は他にもいろいろと……できれば、その件について、ゆっくりと話を聞いて欲しいのだが」

「もちろん、いつでも君の話を聞く準備はある。……だが、君の『クラウド』にも聞かれていいのか?それがまずいのならば、どこかで時間を作ろう」

「……察しが良くて助かる。できれば『クラウド』には聞かれたくないな。彼を危険な目には合わせたくない」

 レオンはそう言って、軽くため息を吐いた。

 私はてっきり、こちらの世界の『セフィロス』がらみの話だと考えていたのだが、当てが外れたのだろうか。

「……その、レオン」

 声を潜めて私は続けた。

「……『セフィロス』は元気だろうか」

 にぎやかなテレビの音にかき消されて、私の言葉は居間へは聞こえない。

「あ、ああ、変わりない。ああいう人だからな。相変わらずだ」

「差し出がましいようだが、彼は普段どこに住んでいるのだ?君の目の届く場所なのだろう?」

 図々しいかと思ったが、ずっと気になっていたことなので、勇気を出して訊ねる。

「ここに来る途中に、城を見なかったか?ヴィンセントさん」

「ああ、不思議な……美しい城だな」

「アンセムの城という。……『セフィロス』はそこに居てくれる。俺がそう頼んだんだ」

 レオンがそう言った。

「そうか……できることなら私も会いたいと思っているのだ」

「いつでも連れて行こう。きっと彼も喜ぶだろう」

 そう言ってもらえて、私は安堵した。

 どうやら、レオンの口ぶりから、『セフィロス』は元気で……というべきか、ごく普通の状態で例の城で暮らしているのだろう。

 食事はどうしているのかなど、細かなことが気に掛かるが、それは彼に会ってからでも話せることだ。

「……レオン、どうしたのだ。『セフィロス』のこと以外に何か気がかりがあるのか?」

「まぁ……な。だが立ち話で話すようなことじゃないんだ。これも実は『クラウド』には聞かれたくない。明日……あなたたちを例の城に案内してから話す」

 歯切れ悪くレオンがつぶやいた。

「この話は『セフィロス』にも伝えておきたいんだ。それでその……もし、彼が素直に俺の言うことを聞き入れてくれなかったときには……その、俺の味方をして欲しい」

 何が何やらわからないことを言うレオンだ。

 そっとその顔を覗き見ると、眉間にしわを刻み込み、物言いたげに口を噤んでいる表情に出会うのだった。