IN Wonderland
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
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 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 翌日、私とクラウドは、レオンに同行して城に行くことになった。

 もちろん、ひとりマーリンの家に向かう『クラウド』は、さんざんふて腐れていたが、レオンも慣れているのだろう。言葉巧みに彼を誘導し、まんまと私たち三人で、アンセムの城へ行くシチュエーションを整えたのである。

 

「このあたりになると、ずいぶんと気温が下がるのだな」

 私は、水晶の谷と呼ばれる渓谷を歩きながら、レオンにそう言った。

「景色が余計に寒々しいからだろう。『美しい』と呼ぶヤツもいるがな」

「水晶の湖のようだ。いわれてみれば確かに美しい」

 私はそう言って頷いた。

「そろそろハートレスとノーバディが現われる。城の一階はモンスターが生息しているので、注意してくれ」

 レオンが言い切らぬうちに、奇妙な形をしたモンスターが飛び出した。全身真っ黒のハートレスとは異なり、色とりどりにペインティングされている。

「これは……」

「ノーバディだ。ためらわず、倒してくれ」

 我々は、こちら側に向かってくるモンスターたちを、迎撃することとなった。

 

 ガゥンガゥン!

 ケルベロスを操り、モンスターたちを撃ち抜いていく。

 心を持たないハートレス、本物の身体のないノーバディ……手こずらされることはなかったが、なんとも切ない気分になる。

 ようやく城に着き、モンスターたちの現われない最上階へ到着したときには、思わず深いため息を吐いてしまった。

 

「レオン、あのモンスター群、どうにかなんないの?前来たときも、城のまわりはモンスターがいっぱいいたよね」

 クラウドがレオンにそう言った。

「……どうやら、アンセムの城周辺には時空のひずみが多いようでな。そのゆがみを通って、こちらの世界に現われるモンスターも多いようだ。どうしても対応は後手後手に回ってしまう」

 ガンブレードを仕舞いながらレオンが応える。

「だが……一階にモンスターの溢れる城に、『セフィロス』を置いているのか。危険はないのだろうか」

 私の問いに、レオンは口を開いた。

「城から出ないようにとは言っているんだがな。『セフィロス』の世界もこの城に繋がった異次元にあるんだ」

「なんだか、いろいろ複雑だね。まぁ、こっちの世界のセフィに危険がないならいいんだけどさ」

「もちろん、その辺は俺も十分考えている。……着いた、アンセムの私室だ。ここに『セフィロス』がいる」

 そう言って、レオンはやさしく扉をノックした

 

 

 

 

 

 

 その人は、長い民族衣装のようなものを着て、寝台のかたわらに佇んでいた。

「『セフィロス』、久しぶりだな……!」

 私は彼に駆け寄ると、そっとその手を取った。

 『セフィロス』は我々が現われたことに、それほど驚きもせず、落ち着いた口調で迎えてくれた。

「久しいな……いや、そうでもないか。ヴィンセント・ヴァレンタイン……クラウド?」

「そう、一目で俺がどっちの世界のクラウドかわかるんだね」

 と、いたずらっぽくクラウドが言った。

「……当然だ。纏う空気が異なる」

 『セフィロス』はそういうと、手を持ち上げてクラウドの髪を撫でた。

「『セフィロス』、気分はどうだ?具合が悪いことはないだろうな」

 レオンがせかせかと訊ねる。

「……なんともない。ただの鼻風邪を大げさに言うな」

 『セフィロス』は面倒くさそうにそういうと、寝台に腰掛けた。とんとんとそのとなりを叩く。私たちに座れと促しているのだろう。

「此度はどうやってこちらにやってきたのだ……ヴィンセント、クラウド」

「うん、ジェネシスに頼んでね。ヴィンセントがさー、めずらしくも旅行に行きたいなんていうから、どこかと思ったら、ホロウバスティオンのことだったんだよ。俺だって驚いてさ~」

 クラウドがそんなふうに言った。

「ほほぅ……」

 と、『セフィロス』が私の顔を眺める。

「私は……一度も時空とやらを超えたことがなかったから……一度でいいから、君たちの世界へ来てみたかったのだ。レオンや『クラウド』……それに君に会いたかった、『セフィロス』」

 そう言った私に、意外そうでもなく、

「『そうか』」

 と頷いた。

「……しかし、よくおまえたちの世界のセフィロスが、それを許したな。クラウドはともかく……おまえのことを、ヴィンセント・ヴァレンタイン」

「え?どういう意味だ。セフィロスは、『おまえも男の端くれだったんだな』といって、楽しげに送り出してくれたぞ」

 と、私がいうと、『セフィロス』は

「ふふふ……なるほど、可愛い子には旅をさせろ、か」

 と小さくつぶやくのであった。

「皆、茶を淹れたぞ。『セフィロス』、起きているなら、肩にガウンを掛けてくれ」

 それぞれに美味しい紅茶を振る舞うと、自身はまだ一口も飲まぬうちに、せかせかと『セフィロス』の世話を焼くレオンであった。