IN Wonderland
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<8>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 

「『セフィロス』……それからヴィンセントさんと、クラウドも聞いてくれ」

 マフィンを片手に、二杯目の茶をもらおうとしたとき、レオンが神妙な顔をして口を開いた。

 クラウドは食べながらでも顔を上げたが、当の『セフィロス』は茶菓子に夢中になっていてあまり聞いているようには見えない。

 それに気付いているのか居ないのか、はたまた慣れっこになっているのか知らないが、レオンは続けた。

「俺はソラの手助けで、ワンダーランドに向かわなければならない。ソラたちはアグラバーで手こずっているらしいんだ」

「あ、ヴィンセント、ソラって言うのはね、この世界のヒーローなんだ、キーブレイドの勇者っていうのがぴったりくるかな」

 クラウドがまったく事情の知らない私に説明してくれる。

「俺も会ったことないんだけど、つんつん頭でちびっこいんだって!」

「ソ、ソラ……キーブレイドの勇者……か」

 私がそう言うと、『セフィロス』は、

「私は知っている。ここに傷を付けられた」

 と、いいながら腹を押さえた。どんないきさつがあったかは知らないが、『セフィロス』とソラは直接闘った機会があったのだろう。

 なんともいえない表情をしたレオンに、『セフィロス』は

「気にするな……何とも思っていない」

 とだけ無愛想に言い返すのであった。

「……13機関はなりを顰めているが、7人のプリンセスを狙っている輩がいる。ソラがアグラバーにいるのもそのためだ。ワンダーランドにもアリスというプリンセスがいる。俺の使命は彼女を守ることなんだ」

 そこまで一息で言うと、レオンは私たちを見つめて続けた。

「ヴィンセントさん、クラウド、すまないが手を貸してもらえないだろうか」

 昨夜から言い出しにくそうにしていたのは、このことだったのだろう。私はすぐに頷き返した。

「もちろんかまわないとも。我々で手助けになるなら、行動を共にしよう。な、クラウド?」

 と傍らにいる彼にも声を掛ける。

「レオンってば、案外ちゃっかりしてるんだから。最初から手助けにするつもりだったんだな」

「すまん、クラウド。俺はワンダーランドという場所は行ったことがないし、一人だと荷が重いと判じたんだ。だからといってうちの『クラウド』まで連れて行ってしまうと、街の守りが手薄になってしまう。あんたたちが現われたときは、正直これ幸いと考えてしまった。力を貸して欲しい」

「もちろん、かまわないよ。ヴィンセントのことも俺がしっかり守るからね」

 意気揚々とクラウドがそういうと、話はまとまったという雰囲気になった。

 

 

 

 

 

 

「……勝手に話が進んでいるようだが……」

 そう言って割って入ったのは、いつまで経っても名指しされない『セフィロス』であった。

「ワンダーランドか。面白そうだな、私も行きた……」

「ダメだ!」

 『セフィロス』が言葉を言い終える前に、レオンが割り込んでダメ出しをした。

「セフィロス、アンタはダメだ。風邪気味なのはもちろんのこと、ワンダーランドは未知の世界だ。どんな危険が待ち受けているかわからない」

 なおもレオンは言葉を重ねた。

「以前、13機関に捕らえられたことがあったろう? あの時、俺は心配で不安で……アンタの顔を見るまでに気がおかしくなってしまうかと本気で感じたんだ」

「……別に捕まったわけでは……」

「ああ、アンタはわざと敵の手中に入り込んだのかもしれないが、理由はどうであれ、檻の中に繋がれていたあんな姿はもう二度と見たくない。頼むから、この城で大人しくして待っていてくれ」

 レオンは一気にまくし立てると、がばりと頭を下げた。

「頼む、『セフィロス』……この場所でいい子にして休んでいてくれ、俺のために」

「……つまらない。私だとて外の世界を見てみたい」

 拗ねたように『セフィロス』がつぶやく。

「物見遊山が希望なら、いつでも連れて行ってやる。ちゃんとアンタを楽しませてやるから、危険なことに顔を突っ込まないでくれ」

「ヴィンセントやクラウドはかまわないというのか」

 ふて腐れたように、『セフィロス』が聞き返した。

「もちろん、ヴィンセントさんやクラウドのことも、協力を得たからには、俺が身命を賭して守るつもりだ。だが……アンタは……アンタのこととなると、俺は頭に血が上ってしまって……おまけに『セフィロス』は好き勝手に動くだろう?アンタが強いのはよく知っているが、危険な場所には連れて行きたくないんだ。頼むから聞き入れてくれ」

 レオンはふたたび頭を下げた。

 なるほど、昨夜、私に耳打ちした話はこれだったのだ。

 ワンダーランドへ行くつもりで、我々に声を掛けたが、『セフィロス』だけは連れて行けないと言い含めるためにだ。彼が素直に言うことを聞いてくれなかったら、自分に味方してくれと私に告げたのである。

 口を尖らせている『セフィロス』には気の毒だったが、必死に頭を下げるレオンを見ていると、ここはやはり彼の味方をしてやるべきだろう。