IN Wonderland
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<9>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 

「『セフィロス』、レオンもここまで言っているのだ。今回は、ここで大人しく待っていてあげてはどうだろうか。風邪をこじらせでもしたら大変だぞ」

 私は『セフィロス』の手を取って、噛んで含めるようにそう言った。

「ヴィンセント・ヴァレンタイン……」

「な?帰ってきたら、真っ先にここに来て、土産話をしてあげよう」

「だが……私だとて行ってみたい」

 駄々を捏ねるようにそう言った。

「行こうと思えばいつでもレオンが連れて行ってくれるそうだ。危険が無くなったら、一緒に行ってみてはどうだろうか。なぁ、レオン」

 と、レオンに話を振ると、彼は何度も頷き返した。

「アンタが行きたい場所に連れて行ってやるから。な?安心して俺を仕事に行かせてくれ」

 どこかのサラリーマンのような物言いで、レオンが頼み込んだ。

 

「フン、もういい……おまえと一緒に行くのはあきらめた」

 『セフィロス』はそういうと、機嫌を損ねたように寝台に潜り込んだ。頭からボスンと布団を被り込んでしまう。

「『セフィロス』、聞き分けてくれたんだな、感謝する。そう怒らないでくれ。すぐに戻ってくるから……」

 レオンが子どもに話しかけるように、やさしく告げる。

「もういい。どこへなりとも好きなところへ行くがいい。私はもう休む。出て行け」

 続けざまにそう言い放ち、いよいよ『セフィロス』は本格的に機嫌を損ねたようであった。

 なおもその態度を緩衝させようとするレオンを、クラウドが引っ張って、寝室から抜け出した。私もすぐにその後を追う。

 

「クラウド、まだ『セフィロス』が……」

 というレオンに、クラウドが眉をハの字に開いて、

「情けない!」

 と吐き出した。

「レオンってば、好きな人のことになると、ホンット情けないね。『セフィロス』だって子どもじゃないんだから、あんなに言い含める必要もないだろ」

「だが……」

 と、まだ戸惑いがちなレオンを、クラウドが叱る。

「とにかく、言うべきことは言ったわけだろ!後は変に甘やかさずに、アンタのすべきことをしろよ。さっさとその……なんだっけ、ワンダーランドだったか?そこに行こう」

「すまん……クラウド」

「謝るな、情けない!ソラに頼まれて、ワンダーランドのプリンセスを助けるんだろう。重大任務じゃないか。ヴィンセントと俺が同行するんだから、さっさと片づけようぜ」

 そういうクラウドに、私も同意を示した。

 

 

 

 

 

 

「スペースシップで、ワンダーランドに向かうことになる。いったん城から出て、ホロウバスティオンのラボへ移動して……」

 ちらちらと『セフィロス』の居る私室を眺めながら、レオンが説明する。

「それなら、早く行こう!『クラウド』にだって、行き先は告げた方がいいだろ!」

「それはそうだが……」

「レオン、『セフィロス』はきっと大丈夫だ。大人しく待っていてくれるだろう」

 一抹の不安を感じながらも、私はレオンにそう告げた。

「そうか?そうだな……ヴィンセントさん、あなたがそう言うのなら……」

 どこか心ここにあらずのレオンを引っ張って、私とクラウドは、マーリンの家とやらに足を運ぶのであった。

 

 行った先で『クラウド』をなだめ、いよいよ私たちが冒険に出るのは、陽が暮れそうになる時刻になっていた。

 スペースシップとやらに乗り込み、時間軸を超えていく。

 

「ところでさ、ワンダーランドってどんなところなの?」

 クラウドが今さらながらという様子で恥ずかしそうに訊ねてきた。

 レオンは、無表情のまま、

「アリスというプリンセスを守りきればそれでいい」

 とだけ素っ気なく言う。

「アリス in ワンダーランド……『不思議の国のアリス』の世界のことだと思う。どうだろうか、レオン」

「ああ、そうらしい。俺もくわしい話は知らないんだが、ともかく敵の手からプリンセスを奪還しなければ……出発の時刻が遅れたからな。無事だといいんだが……」

 と難しい顔でレオンが言った。まだ『セフィロス』のことを気にしているらしい。

「『不思議の国のアリス』ねぇ……俺も名前くらいは聞いたことあるけど」

「どのような世界なのだろうか……少々怖くもあるが、わくわくもする……セフィロスの言っていた冒険心というのは、こういう気持ちのことなのだろうか」

「ヴィンセントがそんなふうに言うのって、めずらしいね。俺は普通に楽しみだけどね。ああ、何かあったら俺が絶対守るから、安心してね」

 そう言ってくれるクラウドに、私は素直に

「ありがとう」

 と返した。

 

「おしゃべりはそろそろ仕舞いだ。ワンダーランドの時空に入るぞ」

 レオンがそう言いながら、舵を切る。

 私たちは、初めて見る異世界を、シップから身を乗り出しそうになりながら、眺めたのであった。