IN Wonderland
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<11>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

  

「すごい雑木林……っていうか、森の中か、ここ?」

 先頭を行くクラウドが、呆れたような声を出した。

「頭上に花が見える。それに巨大な樹も……」

 私がそう言うと、クラウドは気を取り直したように剣を構えた。

「どうやら、ここにもハートレスは現われるみたいだな。油断しないでヴィンセント」

 うぞうぞと草を掻き分け、黒い影が忍び寄る。中には花の擬態をしたハートレスなども混じっており、私たちは行く手を阻む彼らを、斬り倒しながら前へと進んでいった。

 

「ウサギ、ウサギ……ええと、白ウサギだったよね、ヴィンセント」

 クラウドが辺りを見回しながら、そう訊ねてくる。

「確かそう記憶していたと思うが……レオン、覚えているか?」

 と後ろを振り返った。

「え、あ、ああ、そうだな、確かウサギだったと……」

「アホか!白ウサギかどうかって聞いたんだよ。アンタ、心ここにあらずで何してんの!?もとはといえば、アンタのミッションに俺たちが付き合ってやってるんだろうが!」

「ま、まぁまぁ、クラウド。レオン、何か気になることがあるのか?」

 と、いきり立つクラウドをなだめ、私はレオンに訊ねたのであった。

「い、いや、すまん……何でもないんだ。早く白ウサギを見つけよう」

 そういうレオンに、

「どうせ、『セフィロス』のことを思ってるんだろうが。ホント、アンタって、恋愛からむとダメ人間になるな。その愛しい『セフィロス』のところに早く帰るためにも、さっさとシゴト終えようぜ」

 と檄を飛ばす。

「あ、ああ、そうだな……わかった」

 と、レオンが頷いたときだった。

 ザザザと、草木を掻き分ける音がした。もっと向こうの方だ。

 クラウドが、それを追いかけるように駆けだした。もちろん、私たちも後を追う。

 

 すると、比較的、草の少ない広場のような場所に出た。巨大な樹があちこちに突き立っている。

 

『ああ、忙しい忙しい。お茶会に間に合わなくなってしまう。ああ、忙しい忙しい』

 

 懐中時計を片手に、せかせかと草原を駆け抜ける動物が居た。

 ウサギのくせに、四つ足でなく、二足歩行をしている。

 よくよく見てみれば、どこかの執事が着るような、かっちりとした三つ揃いを身につけ、耳にはモノクルまで引っかけているのだ。

 

『ああ、忙しい忙しい。お茶会に間に合わなくなってしまう。ああ、忙しい忙しい』

 

 

 

 

 

 

 不思議な風体をした白ウサギは、巨大な樹の根元にある、うろのような穴へ飛び込んでいった。

「い、今の……!」

「白ウサギだ。追おう、クラウド、レオン!」

 私たち三人は、競い合うようにして、木の根元にある洞穴へ身を投じた。

 冷静に考えれば、そんなところに飛び込んで大丈夫なのかとか、戻ってくる手段を講じてから入るべきだったのかも知れないが、それどころではなかったのだ。

 唯一の手がかりであるウサギを見失っては、終わりである。そんな気持ちで私たちは小さな穴に飛び込んだ。

 

「うわっ!すごい、落ちる~ッ!」

 クラウドが大声を上げる。

「私たちの身体は、重力の導きのまま、一挙に闇の中を滑り落ちていった。

 

 ドサッと放り出されたのは、小さな家から続く庭だった。

 この場所は私たちの身体に合った大きさに出来ているのか。庭の中央に据えられたテーブルも椅子も、親指大になったはずの我々にちょうどマッチするような大きさであった。

 

「な、何……ここ。家があるよ。それにテーブルも……」

 クラウドがそう言って立ち上がったときであった。

 レオンが

「『セフィロス』!」

 と大声を上げた。

 

「おい、ちょっとレオン……」

「見えなかったか、今、人が居た。『セフィロス』だった。長い銀の髪が見えた!」

 確固たる自信を持ってレオンがそう言うが、あいにく私もクラウドも、彼の姿を見ることはなかった。

「気のせいじゃないの?アンタがあんまり『セフィロス』のことを考えているから、幻覚を見たとか」

 からかい口調でクラウドがいうが、レオンは一歩も譲らず、

「『セフィロス』だ。間違いない、小さなくしゃみをしていた」

 と確信を込めて言うのである。

「それより現状を見ようぜ。白ウサギはどこに行ったんだよ」

 私たちはあたりを見回したが、せかせかと走っていた彼がどこに行ったのかはわからなかった。

 ただ、庭の中央に置かれたテーブルには、湯気の立ったままの紅茶の入ったティーカップがいくつかと、アップルパイのホールが置いてあり、大分食べられていて、四分の一だけ残されていた。