IN Wonderland
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<12>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

  

「『セフィロス』だ。間違いない……!」

「いや、もうそれはいいから、レオン」

 呆れたようにクラウドが、レオンをいなし、辺りを見回す。

「このエリアにはハートレスが現われないな」

 私がそういうと、ティーポットに手を触れていたクラウドが、口を開いた。

「ポットが温かい。ついさっきまで人が居たみたいだな」

「……そうだな……アリスだろうか……それとも、誰か他の……」

 と、私が言うと、レオンが確信を持った目で、

「『セフィロス』だ」

 と言った。

「『セフィロス』に違いない。誰と茶会をしていたのかはわからないが、きっとこの場所に来ていたんだ」

 あまりにも自信たっぷりに言い放つレオンに、クラウドが呆れたように口を挟んだ。

「それじゃ、『セフィロス』が誰とお茶してたんだよ。それにどうしてアンタのこと避けるの?仮にも恋人宣言してる相手でしょ」

「それは……きっと俺に見つかると、叱られると思いこんでいるんだ。だから逃げたに違いない」

「それじゃ子どもだろ。……いずれにせよ、ここにはウサギもいないし、アリスちゃんも居そうにない。別の場所を探そうよ」

 クラウドの発言に反対する理由はなかった。

 何より一番の目的は、この世界のプリンセスであるアリスを、守り抜くことなのだ。

 そのためには、まず当の彼女を見つけなければならない。

 

「あそこ……家がある。あの中に入ってみよう。何か手がかりがあるかも」

 クラウドが指さしたのは、こじんまりとした森の中の一軒家だった。そこの出入り口が、この中庭に続いている。

「よし、行こう、レオン」

 彼に声を掛けたが、ぶつぶつと何やらつぶやいて、心ここにあらずだ。

「おい、レオンってば!目的を忘れるなよ!さっさとアリスちゃんを探すぞ」

 クラウドの叱りつけるような発言に、ようやく顔を上げて私たちの後に付いてきた。

 

 

 

 

 

 

「何、この場所……台所……?」

 クラウドが注意深くレンガ造りのかまどの上を歩きながら、小さくつぶやいた。

「ここに着いたとき、最初に行ったあのキッチンではなかろうか。だが、壁面が床になっている」

「ずいぶんと広いな……」

 レオンはそう言いながら、流し台のほうへ歩いていった。

「家具の大きさは、もとの大きさだ。俺たちの身体に合わせたミニチュアじゃない」

 クラウドがそう言うが、外から眺めたとき、この家はたいして大きくはなかった。

 ますます謎が深まるばかりだ。

「こんなところで、理屈考えても仕方がないよ。もともと不思議の世界の~っていうくらいなんだから。それより、ウサギ、ウサギ探さないと」

「この部屋にはいないようだ。反対側の扉から出てみよう。また違う場所に行けるかも知れない」

 私はそう言ってふたりを促した。

 

 部屋が90度に回転しているため、扉の部分は正確には『窓』だ。その窓の向こうへと、我々は足を進めた。

 

「……また森だな……でも、ここはずいぶんとしっかり手入れされているよな」

 最初に降り立ったクラウドが、丁寧に刈り込んである庭園風の場所を歩きながらそう言った。

 木々もミニチュアサイズなのか、小さく綺麗な形に刈り込まれており、バラの花で彩られたアーチのようなものがある。

 

「あーッ!ウサギ!」

 クラウドの叫び声に、私たちはすぐに反応した。

 向かい側から小さな白い固まりが走り込んでくる。

 

『ああ、忙しい忙しい。裁判に間に合わなくなってしまう。ああ、忙しい忙しい』

 

「あ、あのウサギだよね!早く追いかけよう!」

 私たち三人はクラウドを先頭に、一目散に懐中時計を手にした白ウサギを追いかけた。

 観音開きになった金で細工され、バラの蔓が絡まった瀟洒な扉を開く。

 

 すると目の前に現われたのは、レオンではないが、それこそとんでもない光景だったのである。