IN Wonderland
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<13>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

  

 美しく整えられた庭園風の広場。

 その真ん中に、銀色の巨大な鳥かごが設置されていた。どれほど巨大かというと、長身の男が二三人入ってもまだ余るといった様子である。

 

 その鳥かごに向かって、左側に、金銀で豪華に飾り込んである『証言台』いや、もしくは裁判官の座る台というつもりなのか、そう言った様子の仰々しいものが設置されていた。

 華美な電飾で飾り立ててあるその台に、さらに派手やかな衣装を纏った女性が立っている。

 年の頃はすでに中年かと思われるが、釣り鐘型にでっぷりと太った巨体を、電飾顔負けなドレスで着飾っているので、一見して年齢は判別できなかった。

 

 そして広場の周辺を囲うように、トランプの兵隊たちが直立していた。

 その彼らが不作法な闖入者……つまり私たちを、手に持った槍で威嚇しながら、鳥かごの前に追い立てた。

 

「『セフィロス』……!」

 叫んだのはレオンだけではない。私たち全員の視線は、巨大な鳥かごに注がれている。

 そこには青いドレスを身に可愛らしい女の子と、手に長刀を持った英雄が囚われていた。

 

「『セフィロス』!どういうことだ、これは!」

 レオンが槍を突きつけるトランプ兵にくってかかるが、兵士は何も答えず、我々を鳥かごと電飾台の近くまで誘導するのだった。

 

『これより、アリスの裁判をおこなう!』

 せかせかと時計を手にした白ウサギが、声を上げた。

 

「ちょ、ちょっと、裁判だってよ!どういう流れなんだよ、これは!」

 クラウドが私に訊ねる。

「た、確かに、アリスは無実の罪で裁判に掛けられるという一幕があったはずだが……」

「え、えぇッ!?じゃ、じゃあ、助けなくちゃ!」

「いや、ちょっと待ってくれ。……アリスの無実を証明してやる必要があるはずだ」

 私はそう言った。

「それよりも『セフィロス』だ!どうして彼まで捕まっているんだ!早く助けなければ!」

 レオンが鳥かごに飛びつこうとするが、トランプ兵たちがその前を囲み、動けないようにしてしまう。

「『セフィロス』!大丈夫か!すぐに助けるからな!」

 そう叫ぶレオンを横目で見ながら、小さく『ハクシュ!』とくしゃみをした。

 

 

 

 

 

 

『女王陛下が自らお作りになったアップルパイを、ひとりで食い散らかしたのはおまえさんかい?』

 白ウサギの声に、トランプ兵たちが、鳥かごに囚われたアリスに槍を突きつけた。

 アリスは必死に頭を振り、自らに着せられた濡れ衣をはがそうとする。だが、巨大な電飾で彩られた椅子に座る『女王』とやらは、頭からアリスを犯人と決めつけている様子だ。

「違います!私は食べていません。ここから早く出して!」

 両手を組み合わせ、アリスが訴えた。

「おだまり!この小娘が!」

 それを一括したのは、釣り鐘型に太った、『女王陛下』とやらだった。

「この私が丹誠込めて焼いたアップルパイだよ!よその世界からやってきたおまえたちが黙って食べたのだろう!」

「違います!」

 少女の声は悲鳴のようになった。

「さぁ、判事よ、この娘を火炙りの刑に処せ。さぁさぁさぁ!」

 女王は身を乗り出すようにして、蝶ネクタイを締めた白ウサギに迫った。

 一方、同じ鳥かごに監禁されている『セフィロス』は何の緊張もなく、手を口に当て、ゲップと息を噴き出していた。

 

(ちょっ……ちょっちょっ、ちょっとぉ!まずいよ、あれ完全に食べてるよ、四分の一だけ残して、パイ全部食べちゃってくれてるよ)

(そ、そうだな、口の回りを擦っているし……だが、このままではアリスが犯人にされてしまう!)

(だが、どうするんだ!犯人は『セフィロス』だと言って、彼を裁判にかけるのか!?そんなこと、俺が許さん!)

(レ、レオン、落ち着いてくれたまえ、いずれにせよ、アリスを救うことが君の任務なのだろう。パイの件はともかくとして、この場はなんとか収めないと……)

 

「ちょっ、ちょっと、待ったぁ!アンタたち、決めつけんのはよくないな。彼女は知らないって言ってんだろ!」

 トランプ兵を押しのけて、クラウドが女王に向かって声を上げた。

「なんだ、おまえは。この小娘の仲間かい」

 女王がバカにしたようにこちらを見下げる。

「そうじゃないけど……だいたい証拠もないのに、犯人扱いするって無茶すぎるだろう!アリスちゃんを放せ!」

「ほほぅ、小僧、おまえ、この小娘の味方をするのかい?」

「アンタとアリスちゃんだったら、大抵の男は彼女の味方をするだろ」

 失礼極まりない発言だが、いかにもクラウドらしいといった物言いだ。しかし、横柄な女王様の怒りを買うには十分すぎた。

「ええぃ、何をしているトランプ兵!早くそこの男どもをふん縛っておしまい!アリスと一緒に裁判を受けさせるんだよ!」

「待てったら!それじゃ、俺たちが犯人の証拠を集めてくるから!」

 後ろ手に縛られそうになったクラウドが、トランプ兵を押しのけて、さらに声を上げた。

「それで彼女が無実だとわかったら、放してやってくれ!」

「そ、そうだ。彼女の無実をはらしてみせる!」

 レオンもクラウドを応援するようにそう叫んだ。