IN Wonderland
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<14>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

  

 

「無実の証拠を集めてくるというのか。ふん、よぅしいいだろう。二時間だけ待ってやろう。もし、おまえたちが逃げ出したなら、そこにいるアリスの首をちょん切ってしまうからな」

 巨大をゆさゆさと揺らし、まるで吠えるように女王が笑った。

 トランプ兵が我々を解放してくれると同時に、私たちは法廷の広間を駆け抜け、茶会の中庭に向かって走り出した。

 レオンだけが物言いたげに、鳥かごの中の『セフィロス』を見つめていたが、クラウドにきつく促されて、その場を離れたのであった。

 

「どうする……まずいことになったな」

 私の言葉に、クラウドが頷く。

「でも、あの場ではああいうしかなかったからね。アリスちゃんの無実をはらしてやらないと。それにつけても、『セフィロス』だよ……あの人いったい何考えてんの?」

「……おそらく、俺たちを先回りして、ワンダーランドに遊びに来たのだろう。そして茶会の広間で美味そうなパイを見つけたんだ……」

 レオンが眉間にしわを寄せてつぶやいた。

「いや、そうじゃなくて、なんで見ず知らずの場所に置いてあるパイなんて食っちゃってんの?普通に怪しく思うだろ?」

 クラウドのセリフに、

「彼は甘い物が好物なんだ……」

 とレオンが応えた。

「まったく人騒がせなヤツだよなぁ。『セフィロス』を犯人だっていうわけにはいかないからな。とにかく犯人が『アリスでない証拠』を見つけよう」

 クラウドのセリフに私たちは頷き合ったのであった。

 

 ……と、そのときであった。                                 

 生い茂った森の樹の中に、ふわりと猫の顔が浮かんだのだ。

 それが、にま~っと、何とも言えない表情で笑う。

「チェシャ猫……」

 私は『不思議の国のアリス』の小説に出てくる、人の悪い猫の名を口にした。

「うわっ、なんだよ、こいつ、キモチワルイ」

 クラウドが言う。

「ずいぶんな、いいぐさだね。せっかくおまえたちにヒントを与えてやろうと思ったのに」

「この猫もしゃべるのか……」

 レオンが感心したように言う。

 

 

                                           

 

 

 

「チェシャ猫さん、困っているのだ。手を貸して欲しい」

 私は頭を下げてそう訊ねた。

「ふっふっふっ。無罪の『しょうこ』。しょうこは四つあるよ」

 チェシャ猫の身体が暗闇からぬうっと現われる。にまにまと笑ったままの猫は、さらに言葉を続けた。

「しょうこは四つ。みっつは簡単に見つかる。よっつめは難しいかな」

「四つの証拠があるんだな。それはどんな証拠だよ」

 私が何か言う前に、苛立たしげにクラウドが聞き返した。

「ふふふ、しょうこは四つ。どんなしょうこか聞きたい?聞きたいのかな?」

 大きな口がさらににま~っと伸びる。

「早く教えてくれ。時間がないんだ」

 レオンが腕時計を気にしながら、そう訊ねる。

「仕方がないな。大サービスだよ、お客人」

 人間のように前足で顔を掻きながら、チェシャ猫が人の悪い笑みを濃くした。

「しょうこ、しょうこ、しょうこは四つ。証拠のあしあと、証拠のにおい、証拠のとげ、証拠の爪あと。最後のひとつは難しい」

 言うだけ言うと、チェシャ猫はふたたび、にま~っと歯を剥き出しにして笑い、ポイと不思議な小箱をよこした。

「そこに四つのしょうこを集めて入れておくんだね」

 そう言うと、そのまま樹の茂みに消えていった。

 

「さぁ、のんびりしている時間はないぞ。たった二時間しかないんだからな。まず茶会の広場から手分けをして探し出そう」

 クラウドの言葉に、私たちは元来た道を反対に駆け戻った。