IN Wonderland
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<16>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

  

 

「ほぅ、逃げずに戻ってきたな。よい心がけだ」

 どこまでも偉そうに、電飾女王が言った。

「よっつの証拠を見せてみよ」

 白ウサギがせかせかと懐中時計を眺めながら、先を促した。

「あ、ああ、約束どおり、見つけてきた」

 私は不思議な箱を指さして、そう『申し上げた』。

「さぁさぁ、アリスの無実とやらをはらしてみろ」

 女王に促されるまま、レオンは箱を開けて見せた。

「まず、証拠の足跡だ。茶会の席から見つけ出した。見ての通り、大きなものだ。間違いなく成人男性だとわかるだろう」

「ふむふむ、ブーツの足跡だな」

 白ウサギがじっくりと『しょうこのあしあと』を検分した。

「ま、まぁね、ほら、アリスちゃんのものじゃないってわかるだろ?」

 クラウドが横から絶妙のフォローをおこなう。

「確かにアリスのものではないな。大きな男のものだ」

 女王がそう言うのに重ねるようにして、クラウドが次の証拠を引っ張り出した。

「はいはい、次。証拠のにおいだよ」

「ふむ……良い香りだが……」

「そうでしょ、女王さま?いいにおいだけど、アリスちゃんの香水じゃないよ。ほら、やっぱりアリスちゃんは無罪だ」

 調子よくクラウドが言うのに、白ウサギが待ったを掛けた。

「まだまだ『しょうこ』はあるはずだ。次の証拠を見せてみよ」

「はいはい、ええと、『しょうこの爪あと』と『しょうこのとげ』だね」

 クラウドががさがさと箱を漁る。冷や汗を掻きながらも、ここまでは何とか上手くごまかせた。鳥かごに囚われた『セフィロス』は、いつもどおりの無表情で、しかし、どこか面白そうに、我々の立証を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

「『しょうこの爪あと』。ほら、アップルパイの残りにくっついてる。この大きさなんだから、女の子の指じゃないよ。見ればわかるだろ、ほらほらほら」

「パイを押しつけるんじゃないよ。わかったわかった。確かに娘のものではない」

 懐中時計と残りのパイを交互に眺めながら、ウサギはうるさそうに認めた。

「よし最後の証拠を見せてごらん。それからそこの小娘を解き放ってやる。トランプ兵!」

 女王がそう言うと、両脇に控えていたトランプの兵隊が、鳥かごの周囲を囲った。

「さ、最後の証拠は……その……ええぃ、これだ!『しょうこのとげ』!ブツの周囲に落ちていた髪の毛。ほ、ほら、キラキラしているけど、アリスちゃんのキンパツじゃないだろ!」

「…………」

「…………」

 女王と白ウサギが黙り込む。

「……これは銀髪?」

 女王が、鳥かごの中の『セフィロス』を睨み付けた。

「ただの髪の毛だよ。ただ、キンパツじゃないってだけ!」

「ええい、もうよい!裁判は終わりじゃ!トランプ兵、アリスとそこの男を始末せよ!」

 いきり立った女王の怒鳴り声が響き渡ると同時に、裁判所を埋め尽くすトランプ兵が槍を構えた。

「ちょっと、話が違うだろ!アリスちゃんの無実をはらしたんだ!彼女を解放しろッ!」

「黙れ、この異邦者どもめ!アリスも銀髪の男も、まとめて殺してしまえ!」

 杖をぶんぶんと振り回し、女王が本性を現わした。

「結局こうなるのか!」

 レオンがガンブレードを抜き、そう叫んだ。

「言っておくけど、俺のせいじゃないからね。っていうか、かなり俺は頑張ったと思うけど!?」

 とクラウドだ。

 私もケルベロスを構えて、敵に向かった。

 

 数に任せて襲いかかってくるトランプ兵たちを、次々になぎ倒し、アリスの囚われた鳥かごに迫る。

 しかし、彼女は中に居た『セフィロス』によって、解き放たれた。

 正宗が横になぎ払われ、鳥かごの網があっさりと横滑りに斬られ地に落ちる。

 固い鉄の音が、ガシャンと鳴り響いた。

「……娘。座興は終わりだ。早く逃げるがいい。……っくしょん」

 くしゃみをしながら、『セフィロス』がアリスにそう告げる。

「アリスちゃん、こっち!抜け道まで送っていくよ」

 クラウドが青いドレスの少女に手を差し伸べた。

 それと同時にレオンが、『セフィロス』に手を差し出す。

「『セフィロス』、心配したんだぞ。さぁ、帰ろう」

 しかし、彼はつんと顔を背け、鳥かごから飛び降りた。