IN Wonderland
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<17>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

  

 

「『セフィロス』?どうしたんだ、もういいだろう。早く安全な場所へ……」

「まだ、遊び足りない。私はこことパーティ会場へしか行っていない」

「……それで置いてあるアップルパイ食べたのかよ。人騒がせなヤツ」

 クラウドが口を尖らせてそうつぶやいた。アリスが今気がついたというように目を丸くして『セフィロス』を見る。

 しかし、当の本人はどこ吹く風だ。

「たまたま空腹だったのだ。最近は甘い物を食べていなかったゆえ……」

 じろりとレオンを眺める。

「いや、仕方がないだろう。アンタに菓子を渡すとそればかりを食べてしまって、きちんと食事を取らなくなる。それでは身体によくないではないか。もっとバランス良く何でも食べるようにしなければ……」

「あ~、もう、何なんだよ、結局これって、アンタたちの痴話げんかで、主人公のアリスちゃんがピンチに陥ったってオチ?いい加減にしてよ、もう、このバカップル!」

 クラウドが呆れてキレたようにそう叫んだ。

「……ま、まぁまぁクラウド。とにかくアリスを確保できたのだ。まずは彼女をこの迷路の出口へと送っていこう。そうすれば、彼女は元の世界で目覚めて、ハッピーエンドになるはずだ」

「ヴィンセントがそういうなら……じゃあ、さっさと出口を探そう」

 私たちは裁判の行なわれた庭園広場を避け、一路、迷路の出口を目指したのである。

 

 

 

 

 

 

「あ~、疲れた。他人の任務を手伝うのがこんなにも疲れたのって、正直初めて」

 無事にワンダーランドから戻って、アンセムの城へたどり着いたところである。クラウドがレオンを横目で睨み付けてそう言った。

「……面目ない」

 レオンがぼそりと謝罪した。

「だが、無事に彼女を守り通せたのだ。これはこれで良かったではないか」

「ヴィンセントってば、やさしすぎ。まぁ、そんなところも大好きなんだけどね。とにかく今回は、ホロウバスティオンのバカップルにメーワクかけられたとしか……」

 ぶつぶつと口の中で文句を繰り返していたクラウドだが、なにやら思い出したように、キッと顔を上げた。

「アンタたち、ラブラブなのはいいけどね。言っておくけど、こっちの『クラウド』のこと、ないがしろにしたら許さないからね!『クラウド』は変らずレオンのこと好きなんだから。その辺、しっかり自覚してよね」

「……わかっている」

 レオンは言葉少なにそう答えたが、『セフィロス』のほうは、そうではなかった。

「安堵せよ。レオンはこの城を訪ねてやってくるだけだ。泊まっていくこともないし、きちんと『クラウド』のもとに帰って行く。ただの杞憂だ」

「そ、そう……?そんならいいけど……アンタのほうは平気なの?寂しくないの?こんな広い城にひとりで置いておかれて」

「お、おい、クラウド」

 レオンが慌てたように声を上げた。しかし、クラウドはまったく意に介さない。

「『セフィロス』くらい、綺麗で強かったら、いくらでもわがまま聞いてくれる恋人ができそうなもんだけどね。何もレオンにこだわらなくてもいいと思うけど」

「クラウド!おまえ、いいかげんに……」

「……だが、仕方がない。好きなのだから」

 何の抑揚もなく『セフィロス』がつぶやいた。

 感極まったレオンが鼻筋を押さえる。クラウドは呆れたように両手を広げて見せた。