IN Wonderland
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<18>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

  

 

「レオン、いつまでも泣いてんなよ」

 長身をわずかに傾げて目頭を押さえる彼を、クラウドが蹴飛ばした。

「ヴィンセント、さっさと帰ろう。みんなが家で待ってるよ」

「そ、そうだな……その『セフィロス』、時空のゆがみが見えるだろうか。コスタ・デル・ソルに繋がる場所があれば、そこから帰ろうと思う」

 私がそういうと、『セフィロス』は少し考える様子を見せたが、一呼吸置いて、

「……もう、帰るのか」

 と独り言のように漏らした。

「え……あ、ああ、レオンの用事も済んだようだし、コスタ・デル・ソルに皆を待たせているからな」

「そうか……」

 と彼は頷いた。

「あ、ねぇ、なんだったら、『セフィロス』も一緒に行く?こっちで退屈してるんなら、しばらくコスタ・デル・ソルで遊んでいけばいいじゃない」

 クラウドが名案を思いついたというように、『セフィロス』を誘う。

「それもよいが……」

「いいでしょ。うちのみんなは大歓迎だよ、ね、ヴィンセント?」

「そうだな。君さえよければ……だが」

「楽しい誘いだが、今はやめておこう」

 意外にもそうささやいて、『セフィロス』は我々の誘いをやんわりと断った。

「そ、それはそうだな。彼は今、風邪を引いている。大事になるといけない」

 レオンが気を取り直して言いながら、寝台の上に腰掛けた『セフィロス』を、かばうように前に立つ。

 

 

 

 

 

 

「……さて、おまえたちの帰りの道を、指し示してやらなくてはな」

 そういうと、『セフィロス』はゆっくりと立ち上がった。

「あいにく、今、アンセムの城にはゆがみが発生していない。水晶の谷まで移動しようか」

「手間を掛けてすまない、『セフィロス』。今度はもっとゆっくりと語らう時間を設けたい」

 私は彼にそう告げた。

「……そうだな。さぁ、行こう。城から出なければ」

「『セフィロス』、城の一階にはハートレスやノーバディが居る。俺の後ろから前に出ないでくれ」

 レオンがごく当然というように、『セフィロス』をかばいながら、我々を先導してくれた。

 

 

「さて、ここだ。空気の対流が見えるか?」

 『セフィロス』が空に手をかざしてそう言った。

「君のようにはっきり見えるわけではないが……なんとなく感じ取ることはできる」

 そう応えた私に、『セフィロス』がわずかに笑みを見せた。

「それならばよい。ヴィンセント・ヴァレンタインは私と同じ景色を見えるようだな」

「……い、いや、心許ないが」

「じゃ、ヴィンセント、名残惜しいけど、そろそろ帰ろうか。みんな待っているだろうし」

 クラウドに促されて、空気の対流の起きている空間に足を踏み入れる。

「『クラウド』にお別れを言えなかったのは、残念だったけど」

「レオン、彼によろしく言っておいてくれ」

 私がそう頼むと、レオンが深く頷いた。

                                                      

 私たちの身体が空に消える直前だった。

 もうひとりの『クラウド』の、驚いたような声が聞こえたのは。

 

「レ、レオン……『セフィロス』……!な、なんで……?」

 ホロウバスティオンの『クラウド』は、水晶の谷間の入り口で、茫然とした様子で突っ立っていた。

「ど、どうして、レオンと『セフィロス』が一緒にいるの……みんなも……どうして……」

 

「うわっ、ク、『クラウド』、や、やばいじゃん……」

 今、まさに三角関係を描く三人が、私たちの目の前に、ひとりとふたりで、見つめ合うようにして立っている。

「クラウド、ど、どうすれば……」

「無理だよ、俺たちもう身体が消えかかって……」

 

 アッという間に、私たちの目の前の風景は、ここ数日で慣れたホロウバスティオンではなく、もとの常夏の浜辺……コスタ・デル・ソルの湾岸に変ったのであった。

 どさっと浜辺に落ちた私とクラウドは、沈黙したまま、目線を交わしたのであった……