〜 MEMORY'S 〜
〜神羅カンパニー・シリーズ〜
<1>
 
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 ちわす! 俺、ザックス!

 ザックス・フェアっつーんだけど、まぁ、アレ、神羅のソルジャーである。

 ソルジャーと、一言で言っても、いくつかにランクが分かれていて、俺はまもなく1stになる予定の2nd。

 それなりに充実した日々を送っていると言えるだろう。

 

 いやいや、別に俺の身の上話はどうでもいい。

 今日も今日とて、様々な任務が……あ〜、まぁ、遠征の任務が入るときもあるけど、ぽっかりとスケジュールが空き、本社の警備を命じられることもある。今日の俺がそんな状況だ。

 まだまだ新米ソルジャーの悲しさなので、耐えなければならない。

 1stでも長い、アンジール(とても頼りになる大先輩で……話し出すと長くなっちゃうから、また折りを見て彼のことは綴ろうと思う)、その他大勢とは別格の、ジェネシスにセフィロス。

 さすがに彼らは、そういった雑事に狩り出されることはなく、任務がないときは、ほとんど「休暇」という形で自由を認められているのであった。

 

 

 

 

 

 

11:00

 

 まただよ……何やってんだよ、この人は……

 俺はうんざりと溜め息を吐いた。

 

 場所は修習本科生の研修棟……まぁ、フツーの男子校みたいな校舎だと思ってくれればそれでいい。

 ここは、その名の通り、神羅に入社して、まだ日の浅い修習生が授業を受ける場所だ。

 もちろん、俺も入社したばかりのころは、ここで研修を受けた。

 一応、修習生は三年間だが、その間に何度かテストがあり、順当に成績を修めていけば、三年を待たず、一般兵に昇格することができる。

 ぶっちゃけ、勉強関係は鬱陶しかったが、得意の剣術や技術系の実習の成績がバツグンだった俺様は、二年ばかりの研修で、すぐに一般兵に昇格し、ソルジャーの試験を受けることができたのだ、エッヘン!!

 

 いやいやいや、またもや脱線した。

 今、しなければならないことは……そう、俺の任務は、研修棟のパトロールだ。

 研修棟は本社の裏手側にある、寮と繋がった大きな建物だから、そうそう不審者が侵入できる場所ではない。どちらかというと、研修生同士のトラブルや、研修中の事故などに即座に対応する『先輩仕事』といったほうが近いかもしれない。

 実際、寮では一般兵や新米ソルジャーと研修生は一緒の部屋にされる。つまり生活全般から、社員としての指導を任せられるのだ。

 幸い、俺の相棒はクラウドと言って、素直で真面目な研修生だから、この上なくやりやすかったし、気の合う仲間ができたってカンジで嬉しかった。

 

 

11:20

 

 そう……仲間っていうなら、この人もそうなんだけど……

 どうして、この男は、こう毎回毎回……

「……何してんの、セフィロス」

 俺は嫌々ながら、わかりきった問いかけをした。

 夢中で研修教室を覗き込んでいたセフィロスは、俺が背後に立ったことに気付かなかったらしい。

 一瞬ビクッと身体を振るわせ、スックと立ち上がると、俺を振り返り見た。いや、「睥睨した」といったほうが近いだろう。

 ……この上なく、エラソーに。

 ……っていうか、エラソーに振る舞える立場じゃねーだろ。

「なんだ、おまえか。……決まってるだろ、パトロールだ」

 といけしゃあしゃあと。

「なにがパトロールだよ。トップソルジャーのアンタらに、そんなこと頼むヤツはいねーだろーが」

「自発的パトロールだ。何か文句があるか?」

「……いや、アンタ、パトロールって…… デカイ図体草むらに隠して、双眼鏡で教室覗き込んでるって……そりゃパトロールじゃなくて、ストーキングだろ」

「失敬な! いいから貴様はさっさと消えろ。ここは私が警備しているから何の心配もない」

「……いや、ぶっちゃけ、アンタ自身が不審者そのものなんだけど……」

「シッ!」

 セフィロスは、するどく叱責すると、俺の頭をグイと草むらに押し込んだ。何故、こんな場所で匍匐前進の練習なんざせにゃならんのだ!ああ、もう服汚れるしィ!

 

 

11:30

 

「あ、ねぇねぇ、お鍋ふいてるよ! 水の量、多いんじゃないかな?」

「クラウド、ジャガイモ、まだかよ。こっちもう済んでるぞー!」

「そろそろ、肉、切ってもいい?」

「あ、待った待った!」

 キャッキャッという楽しげな歓声は、授業には似つかわしくなかったが、どうやらクラウドたちのクラスは調理実習らしい。

 そういえば、さきほどから腹の虫を刺激する、よい香りが漂ってきている。

「クラウド、イモ、早く早く」

「待って、後二個あんの」

「貸せよ、俺も手伝う!」

「ニンジンの皮むき済んでるの?」

「タマネギって、どこまで剥けばいいんだよ!」

 キャッキャッキャッ、だ。

   

「あー、なんだよ、調理実習か。そういや、そんな授業もあったっけな。で?それがどうしたんだよ、セフィロス」

「…………」

「……? セフィロス?」

 俺は黙ったままのセフィロスの顔を覗き込んだ。

 

 ……デレ〜ッとにやけた顔……他の連中の前では絶対に見せないツラだ。

「……セフィロス、アンタ……何考えて……」

「……メニューはいなり寿司と、肉じゃがだ……」

 目線は料理実習室のまま、彼は低い声でぼそりとつぶやいた。

 その間にも、クラウドたち、修習生がキャッキャッと慣れない手つきで料理を進めている。

 セフィロスやジェネシスみたいな、一部の連中を覗いて、俺らはごく普通に修習生から見習い兵、そして一般兵へと昇格していく。

 クラウドたちが行っている調理実習は、野営のための大切な技術であり、また下っ端兵として、軍に同行するとき、必ず回ってくる仕事なのだ。

 ぶっちゃけ、俺はゴーカイな野戦料理は大得意なので、乞うご期待!

 ……って、まぁそいつはいいとして。