〜 修習生・研修旅行 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<19>
 ザックス・フェア
 

 

 


 

「……ザックス、いいか、地図を見てくれ」

 ジェネシスが気持ちを切り替えたような声音で俺を促した。

「え、あ、ああ」 

 ふたりしてもう何度も見た紙っきれに、再び目を落とす。

「俺たちが今居るのはこの地点だ」

「ああ、ここ……道なりに崖になっているところだろ」

「そう。確かに崖なんだけど、薄い段差がある。それこそ、人ひとり壁にぴったり張り付いて立っていられるか否かというような、パイ生地みたいなな」

「…………」

「最初にチョコボが降り立ったのもそんな場所だ。つまりこの崖は下に向かってなだらかな段差があるんだ。……運がよければ、途中で引っかかっている可能性もある」

「……希望的観測だよな」

 言いたくもないのに、絶望的なセリフが口をついてしまった。

「いや、俺は彼は大丈夫だと思ってる。たぶん、どこかで動けなくなっているだけじゃないかな。チョコボだし」

 どーゆー理屈だってんだよ!

 だが、今はジェネシスと口論している場合ではない。

「よし、行こうぜジェネシス!」

「ああ。ロープはあるな?」

「よし、命綱は必要だ」 

 しっかりとロープの強度を確認した後、ジェネシスはふたりの修習生に声を掛けた。

「君たち。命綱のロープを任せるから。俺たちはどんどん進むから、万一この長さで足りなくなったら、適宜足してくれ。ただ一挙に長い補強をしてしまうと……」

「ハイ、大丈夫です!ロープ実習についてはこの前学びました!」

「そうか。では任せる。それから、ライトは俺たちも持って行くが、大きなものは装備できない。上から移動に合わせて確認できる限り、照らすようにしてくれ」

「は、はい!」

「頼むぞ、ふたりとも。……大変だろうけど、がんばってくれな!」

 再度、意志確認をするようにふたりの顔を眺めると、彼らはしっかりと頷いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 ズルズルすべる足下を、ライトの光が照らし出す。

 ジェネシスのいったとおり、この崖は階段構造で、幅の広さ狭さはまちまちに、ある一定の距離ごとに段差が生じていた。

 それは崖の端から端を輪のようにつなぎ合わせ、細い道になっている。もちろん、わずか数センチで、『道』として利用できない部分もあるわけだが。

「ザックス、落ちるなよ」

 前を歩くジェネシスが言った。この状況を楽しんでいるわけではなかろうが、わりと軽い口調だった。

「わ、わかってるよ。俺だってまだ死にたくねェ」

 そういってから、クラウドのことを思い出した。

 『死』……

 ダメだ!馬鹿なことを考えるなッ!

 クラウドは絶対に生きている。こんなふうに逝くはずがない。

「……ザックス。ほら、リラックス」

「え……あ、いや、すまねェ」

「いいんだよ。ただね、今は気が張っていて自覚がないかも知れないけど、身体は相当疲労しているはずだ。こういうときほど重篤な負傷をしかねない」

「……怪我なんて…… クラウドの状態に比べたら……」

「その『クラウド』も、おまえが無事でいなければ、見つけ出すこともできないんだよ」

 穏やかに諭され、俺は頷いた。

「……ああ、わかってる。そうだよな」

「さ、行こう、ザックス。少し雨風が落ち着いてきたな。いい傾向だ」

 そういうと、ジェネシスは丁寧に丁寧に、道を辿った。

 俺は目を皿のようにして、クラウドの姿を探した。