〜 研修旅行 その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<1>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 あれから一週間……

 もちろん、冷や汗ものの研修旅行が終了してから、一週間後という意味だ。

 

 案の定、修習生クラウドの事故の件は、上層部の耳に入ることとなった。これは如何ともしがたい状況だったのだ。

 結局、セフィロスとクラウドは、揃ってミッドガルへ帰還することになったし、たいしたケガではないというものの、ふたりとも全く無事とは言えなかった。

 クラウドなどは傷は本当に掠り傷程度であったのだが、後から疲れが出たのか、ミッドガルに着くなり高熱を発した。セフィロスのヤツは片足のねんざ。だいたいあの高さからダイブしてねんざだけってどうなんだよ!?

 それでも上層部の連中からすれば、神羅の看板ソルジャーに怪我などを負わせて……ということになるのだろう。

 

 引率担当者だったオレは、降格処分こそなかったものの、ソルジャークラス1stへの昇格の話が立ち消えになった。

 本当ならその程度ではすまなかったはずだ。アンジールの話によると、ジェネシスが教務部とラザード人事統括に直接話をしてくれたらしい。奴本人は俺にそんな打ち明け話はしないが、アンジールの話は事実なのだろう。

 処分が下される前日まで、なんとなく腫れ物に触るような態度だった統括が、今は常と変わらぬ態度に戻っている。

 カマをかけるつもりで、ジェネシスに、

「ずいぶん軽い処分じゃねェ?」

 と言ってみたが、

「おまえの日頃の成果だろ。統括としても降格などにはしたくなかったのだろうし、ソルジャーは常に人材不足だからね」

 と人ごとのように言ってのけた。

 クソ……ジェネシスにはしっかりと借りができちまったぜ。そのうち、きちんと返さないとな。

 

 目下のところ……問題はクラウドだった。

 高熱の原因は病などではなく、あくまでも疲労であったから、熱が引いてゆくのも早かった。セフィロスがドタバタとメディカルルームに張り込むまでもなく、二日ほどであっさりと下がったのだ。

 ……問題はここからだ。

 クラウドの正式な処分は未だ下されず、自室謹慎だけが言い渡されていた。

 授業には出席できないが、課題はあたりまえのように出されるのだ。クラスメイトが授業終了後、部屋に立ち寄っていろいろと面倒を見てくれるのは、クラウドの人徳でもあるのだろう。

 だが、明確な処分が言い渡されず、蛇の生殺しのように自室謹慎は、クラウドにとってはかなりストレスだったと思う。

 もちろん、俺にはどうしてやることもできなくて…… ただクラウドと共に、悶々とした時間を過ごすだけであった。

 

 

 

 

 

 

「チュース……」

 いつもどおり執務室へ顔を出す。

 アンジールに次の任務の件で呼ばれていたので、挨拶だけすませると、俺はソルジャーの人事部へ足を向けた。

 ちなみにアンジールには、今回の一件を余すことなく話をしたが、

「おのれの未熟に気づいたのなら意義あることだ。同じ失敗を二度と繰り返すな」

 とだけ言われた。あまりにももっともな発言で、俺はただ頷きその言葉を心に刻み込んだ。

「どうした、ザックス。元気がないね」

 息抜きのティールームで、しょぼしょぼと茶をしばいていたら、目の前に派手やかな男が座った。いわずもがなジェネシスだ。ったく真っ赤なコートはどこででも目立って仕方がない。

「ああ、ジェネシス……」

「具合でも悪いのか?」

「アンタさ……空気読もうよ…… そりゃ、今現在、俺が元気いっぱいでいられるわきゃないだろ……」

 ついつい当てつけがましく言ってしまう。本当ならジェネシスにはいくら礼を言ってもたりないくらいなのに。

「チョコボのことを気にしているのか?」

「たりめーだよ。……謹慎は解けないし……まだ、正式な処分は出されていないからな」

 ため息混じりにそう言った。ほとんどつぶやきになっていたと思う。

「……おまえは出来る限りのことをしただろう。これ以上深入りする必要はないんじゃないか?」

 クールな物言いに、俺は顔を上げてジェネシスをにらんだ。だが、彼はまったく動じていない。いや、動じるどころか、どうして俺がそんな表情をするのかさえ、わかっていないようだった。

「深入りするなって……どういうことだよ。あいつは後輩で……ダチなんだぞ。もし、万一……」

「…………」

「万一……除籍処分なんかになったら……」

「……だから。ザックスは、彼を救うためにいろいろとしてやったじゃないか。おまえに出来ることはもうないだろう? あの子だって、未成年とはいえ、神羅の社員だ。どんな処分が下されようと自己責任だとわかっているさ」

「そう簡単に割り切れるもんじゃねェよ……」

 苦鳴のように絞り出した俺に、ジェネシスはやれやれという様子で吐息した。

「……気の毒だけどね、ザックス。上層部の様相はあまり芳しくはないね」

 ビクッと背筋が震える。

「……ジェネシス……」

「想像はつくだろう? 副社長が除籍処分を言い立てている。エデュケーションスクールサイドは、まだ修習生ということで穏便な処置を請うているみたいだけどね。どっちの権限が強いか……いうまでもないだろう?」

 情報通のジェネシスのいうことだ。ニュースソースは正確なものだろう。

「副社長の……そりゃ私情じゃねぇか……」

「そう言ってしまえばそうかもね。チョコボじゃない、誰か別の子が引き起こした事故なら、懲罰房送りくらいで済んでいるかもしれない」

「……セフィロスは?」

 思わず俺はそう訊ねていた。セフィロスがクラウドを追いかけ回していることには反対なのに、唯一この場面を逆転できるのは、あの男しかいないと思っていたから。

「……まだ彼の耳には入っていないんじゃないか? だいたい上層部がそういった流れになっているなんて、誰も知らないわけだし」

 とすました顔でジェネシスは言った。

「でも! クラウドのことを気にしているなら、アンタみたいに、そういった情報には耳ざとくなるだろ? あいつの立場なら、いくらでもお偉いさんたちから話が聞けるはずだ!」

 ジェネシスに怒るところではないのに、ついつい俺の声音は厳しいものになっていた。