〜 研修旅行 その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
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 ザックス・フェア
 

 

 

 

 事態が激変したのは、レノたちタークスと飲みに行って、3,4日あまり経った頃だった。

 クラウドのコトを心配しつつも、俺には次から次へと新しい任務が入ってきたし、何をしでかすかわからないセフィロスからは、いっときも目を離すことはできない。

 幸い、ミッドガルから離れなければならない状況に陥ることはなかったから、それだけはラッキーだったと言えるだろう。

 ジェネシスもほとんど本社にはいなかったから、きっと不在だった期間分の仕事が溜まっていたのだろうと思う。

 午後五時過ぎ……

 めずらしく早めに仕事が引けて、俺は早速部屋に戻ることにした。

 もちろん、クラウドのことが気になるからだ。クラウドのクラスメイトもよく部屋に来てくれているが、彼らだって多忙な修習生だ。時間のある限り、俺が側に居てやるのが道理だろう。

 この日もそう思って寮への道を急いでいたのだ。

 

 そして、その場で新しい展開を見たわけである。……というか、その時点では、それがいったいどういうことなのか、結果的にどんな作用を期待できるのかまったくわからなかったのであるが。

 部屋のドアを開けると、クラウドの同級生がぎゅうぎゅうと狭い空間に押しかけている状況だった。

 見れば研修旅行で同じ班だった連中だ。班長のイングス始め、ルーネス、アルクゥ……etc……

 

「あ、ザックス! おかえり、早かったね!」

 クラウドが俺の姿に気づいて、すぐに声を掛けてきた。やはりこうして皆といるときは、夜よりもずっと元気そうに見える。

「あ、ザックスさん、おかえんなさい!」

「すみません、おじゃましてます」

 修習生たちが口々にいう。

「おう、なんだ、みんな集まって……ああ、授業のことか」

 クラウドの分を皆で手分けしてノートに取ってくれているのだ。一日の終わりにそれらをまとめて届け、難しい部分は班長がレクチャーしてくれるらしい。本当にいい友人たちだと思う。

「ええ、それもあるんですけど…… ほら、見てください、ザックスさん!」

 ルーネスが皆で取り囲んでいたテーブルから、新聞を突きつけてきた。

「え……なんだよ、新聞なら今朝……」

「いいえ、これ、さっき発行されたばかりの号外なんです! 市街地でも配っているそうですよ!」

「へぇ……」

 俺は勧められるままに、カラー印刷のそれを手に取った。

 

『またも大活躍! 神羅の英雄!!』

 巨大な見出しが冒頭に躍っている。

 俺は慌てて先を読み進めた。

 

『去る○月×日、神羅修習生・研修旅行。山頂にて、突然の豪雨と雷鳴が……』

 と、読み物風に始まった号外新聞は、まさに俺たちがあの山で体験した事件を綴った代物だった。

「勇気ある研修生のひとりが、夜間の豪雨を徹して薬草を採りに出かけた後、その悲劇は起こった……」

 一連の事件の内容が綴られ、幾枚もの写真には山頂を叩き付ける突風と雷雨の状況が鮮明に映し出され、俺たち引率のソルジャーが探索のために動き回っている様子も載せられていた。

 ページを手繰るといきなりセフィロスのドアップ!

 大事そうに薬草を抱えて眠っているクラウドを、びしょ濡れのセフィロスが抱き上げている写真だ。

 クラウドを見つめる満足そうな微笑は、俺の知っている悪魔のような下半身男ではなく、その新聞が謳い上げるように、まさしく『漆黒の天使』(でも気持ち悪ィ)という風情だ。

 こうして紙面を辿っていても、その場面まで読み進めると、思わず拍手したくなるほどに。

「セフィロスさん、かっこいいなぁ」

 誰ともなくそうつぶやく。皆、一様にうんうんと頷き返す。

「でもさ、クラウド抱えて崖から落下したんだろ? 俺、正直もっとひどい怪我してるんだと思ってた」

 とバッツ。

 そうだよな。俺もそう感じた。

 だが、あのとき、片足を引きずりながら現れたセフィロスは、レモンを抱く熊みたいで……っつーか、むしろそっちの方が印象に残っているのだ。つまり本当にたいした傷は作っていなかったのだ。

「落下って言うか、森のほうをめがけて跳んだんだって。先輩が話してたよ」

「でも、病院行ったんでしょ、ザックスさん?」

 とアルクゥ。

「ああ、まぁ念のためにな。セフィロスはびしょ濡れだったし、クラウドは丸一晩屋外にいたわけだから」

「あー、やっぱ怪我のせいでじゃないんだ〜……スゴイなぁ〜」

「クラウド、なぁ、そのときのこと覚えてないのか?」

 興味津々という様子でクラスメイトたちは訊ねる。なまじ邪心がない質問だから遮りにくい。

「うーん……おれも怪我はなかったんだけど、ショックで気を失ってたみたいなんだよね。明け方近くに一度目が覚めたんだけど……セフィロスさんの顔だけが見えた。抱っこされてたせいか、寒いとかは感じなかったな」

「そっか〜…… すごいなぁ、やっぱソルジャークラス1stは…… 俺も頑張って絶対にソルジャーになるぜ!」

「俺も負けんぞ。バッツは実技よりも座学に力を入れるべきだな」

「あっはっはっ、イングスってばストレートだなァ」

 どうやら修習生たちはこの新聞記事で、さらに感化されてしまったらしい。口々にソルジャーへの夢を語り出すのであった。

 ……しかし……

 ……しかし……気になることがある。

 なぜ、今になって、こんな記事が…… しかもミッドガルの市街地で、わざわざ号外としてバラ捲かれるなんて……?