〜 告白 〜
 第二章
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<11>
 ジェネシス
 

 

 

 

「筋を痛めちゃ、廃業になっちまう」

 レノが握っては開いてを繰り返す。

「すぐにきちんとした手当を受ければ問題ないよ。……他のタークスの連中は?」

「わかんねェ…… 最初は俺たちの部隊だけだったからな。手分けをして捜す段取りになってた。でももうコイツもオシャカにしちまったから……」

 彼は足下に転がった、神羅の社印の入った携帯を見下ろした。

「だが探索している区画はわかるぞ、と」

「レノ。まずは他人よりも自分のことだ」

 俺は言った。

「片手の使えなくなった怪我人に、これ以上できることはないよ。仮に負傷した仲間が見つかっても、その身体じゃ背に負うどころか肩を貸すことすら無理だろう?」

「……だよな」

「素直でよろしい。とにかく早く医者にかかることだ。医療部隊も増員している。西区画の方に行ってみろ」

 俺はそう言うと踵を返した。

 ちらりと携帯を見るが、新しいメッセージは入っていない。

 ……時間……レノ相手に十分ほどを使ってしまった。急がなければならない。

 アンジールかザックスにでも捕獲されてくれれば幸いなのだが、良くないことほど、俺のカンはよく当たる。

 

「おい、ちょっと待てよ! アンタはどこへ行くんだ! ソルジャーにも出動命令が出ているなら、指揮はアンタら1stだろう!?」

 大声でレノが訊ねてくる。

 やれやれ妙に敏感な男だ。適当にごまかそうと思ったが、いっそ本社に連れ帰ったほうがよいかもしれない。

 軍事部隊の多くは出払っていようが、メディカルセンターでは搬送された負傷者を引き受ける外科医師が多く残っているはずだ。

 

「軍の指揮はアンジールだ。それよりも気が変わった。レノ、一緒に来てくれ」

「……? 何を急に……」

「ここからなら、本社に戻るほうが早い。紳士である俺としては、怪我人をメディカルセンターまで送ることにするよ」

「ゲッ!気持ち悪ィ! いいって、別に、脚は動くんだしよ」

 ……そう、脚は動くのがいいのだ。

 不幸なことに、俺のカンが当たったとしても、脚に怪我がなければ走って逃げられる。

 本社に現状報告をしてもらうためにも、もうひとり居たほうがいいのだ。電話では伝えられることも限られてくる。

 

 

 

 

 

 

「いいから、行くぞ、レノ! ああ、左腕は揺らさないように走れよ」

「……ったく、無茶言ってくれるぞ、と」

 ぶつぶつ文句を垂れつつも、彼は俺と一緒に来てくれた。

 あの場に残っても、他のメンバーの消息はわからない。わざわざ救急部隊の天幕を捜して歩くのも馬鹿馬鹿しいと考えたのかも知れない。

 

 五番街を抜けると、ここから本社に向かうのは一本道だ。

 途中でモンスター殲滅に狩り出された部隊とすれ違うが、敢えて身を潜めてやり過ごす。もちろん、面倒ゴトを避けるためにだ。

 レノも心得たとばかりに気を消す。そのあたりはさすがタークスといったところか。

 

「……おい、ずいぶん軍用車が出て行ったな。これじゃ本社に兵隊は残っているのかよ」

 不安げに赤毛の彼がつぶやく。

「乗車している人間の半分は、都市計画部門の建築屋さんだと思うよ。がれきをどかさないと人命救助も為らないからね」

「ああ、そっか……だよな」

「だが、おまえの言う通り、兵隊も少なくなっているだろう。道中、気を抜くなよ、レノ」

「ここまでくれば、庭園抜けてすぐだろ」

 

 ……庭園広場……

 季節の花が咲き乱れ、中心には大きな噴水がある。ここは時を問わず、澄んだ水が流れるカップルのメッカ……とまでは言わないが、社員の憩いの場所だ。

 セフィロスなどは、よくこの広い庭園の隅で見つからないように昼寝をしている。

 ここはもう神羅カンパニーの敷地内なのだ。

 

 さすがにオープンで、緊急出動が掛けられた後だ。

 いつもなら、まだ人影がある時間なのに、そこはひっそりと静まりかえっている。

 動物たちもただならぬ気配を感じるのだろうか。人なつこい子猫の姿さえ見えなくなっていた。

 

 と思った瞬間だ。

 

 ザザザッと茂みが揺れた。

 とっさに剣を抜く。レノも右手で銃を握っていた。

 

「にゅ〜ん、みゅ〜」

 夜目にも美しい銀糸の子猫が、おずおずと出てきた。

 殺気を放った俺たちが怖かったのか、小さな身体を強ばらせ、フシューッ!と牙を剥いた。

「やぁ、ごめんごめん、小さなレディ。今日はちょっと捕り物があってね。君はママのところへ戻っておいで」

 腰をかがめてそういうと、彼女はようやく警戒を解いてくれた。

「にゅん、にゅん」

 と、何かを訴えるように鳴き声を上げる。

「ああ、ごめんよ。今日はセフィロスはいないんだ。でも大丈夫。もうすっかり元気になったから。きっとまた君たちに会いに来るさ」

「にゅ〜ん……」

 神羅本社に向かって、長く鳴くと銀色の子猫は木陰に消えていった。

 

「おい、なに今の。セフィロスが……って」

「ああ、彼は子猫たちの英雄でもあるのさ。フフ、存外、小動物に好かれる性質らしい」

 迷い出てきた子猫のせいか、少しだけ気を緩めることができた。

 

 この時点で俺はほとんど確信していたのだ。

 『ヤツ』は間違いなく本社付近にいる。

 人としての思考を持つのなら、まず為すべきと考えるのは……

 

「さぁ、レノ、急ごう」

 敢えて、平静を装って彼に声を掛けた。