〜 告白 〜
 第二章
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<12>
 クラウド
 

 

 

 

「ねぇ、なんかさ、変に静かだと思わない?」

 寮の窓から外を眺めても、とりたてておかしなことはない。

 本社のほうは、いつもよりも灯りがついている部屋が少ないけど、たまたま残業をしている人が少ないのかも知れない。

 おれはザックスがいないのがつまらなくて、寮の友だちの部屋におじゃましていたのだ。

 もう時刻は夜の十時。

 いつもならば、とっくに点呼が来ている。

「うん、点呼も来ないし……おかしいよね」

 綺麗な金髪をしたルーネスが頷き返した。

 おれの髪も金色だけど、『ハニーブロンド』とかいうらしい。金の色味が強くてはちみつみたいなんだって。

 セフィロスさんがそう言っていた。

 ルーネスのは、もっと淡いカンジの色で、月の光にキラキラと輝いている。彼は女の人みたいに美人なので、となりに身を寄せられると、おれはちょびっとドキドキした。

 

「だが、まもなく就寝時間だ。クラウド、アルクゥ、部屋に戻れ」

 ルーネスと同室の班長のイングズだ。

 生真面目な気質の彼は、おのれにも他人にも厳しい。

 ちなみにアルクゥというのは、やはり同期の友だちで、ちびなおれよりもっと小さい。

「まぁまぁ、イングス。そのうち点呼がくるだろ。……それに、今夜は何となく俺も落ち着かない。ザックスさんだけじゃなく、一般兵の人たちも含めて、かなりの人数が動員されているみたいだ」

 ルーネスが、おれの全く知らないことを、さらりと言った。

「え、なに? なんかあったの? ザックス、『ただの野暮用』だって……」

「ふふ、クラウドは可愛いなぁ。その物言いって、完全にごまかしてるんだよ。きっと、その時点では極秘任務だったんだろうね」

 イイコイイコというように、俺の頭を撫でてルーネスが微笑った。

「その時点ではって…… 知っているのか、ルーネス?」

「くわしいことはわからないけど、市街地の騒ぎの原因は耳にしたよ。そりゃまぁ、外部には絶対に極秘事項だろうね」

 あっさりとルーネスが言った。

「お、おまえ、いったいどこで……」

 呆れるイングスに、悪魔的な笑みを浮かべ、

「まぁ、俺にもいろいろ付き合いがあるからさ。そこら辺は突っ込まないでくれよ」

 と、彼は応えた。

 

 

 

 

 

 

「科学生物研究所のモンスターが!?」

「しっ! イングズ、声が大きいよ」

「あ、ああ……すまん」

 シッと指を立てるルーネスのしぐさに、おもわず声を出しそうになったおれも、ぐっと口を噤んだ。

「どんなモノなのかは知らないんだけど、この騒ぎからすると、かなり危険な生物なのかもね」

「……テロ活動の鎮圧だの……そういう仕事だと思ってた」

 アルクゥが、詰めていた息を吐き出した。

「あ、ご、ごめんね、クラウド。怖い目に遭ったばかりなのに、僕……」

「ううん、平気。……あのとき、大変だったのはセフィロスさんだけだよ。おれなんてただの足手まといで……」

「ハイハイ、ふたりともそこまで。それより、市街地の様子が気になるよね。修習生の出番はないだろうけど、一般市民に、死者が出たとしたら、相当マズイことになるんじゃない?」

 ルーネスが、ひどく冷静にそう言った。後半だけだが。

「そ、そうだよね。モンスターって言っても、神羅の研究所に居たヤツだもんね」

「あのね、クラウド。モンスターっていうか、たぶん、実験動物だと思う。新種のモンスターを発見したら、いろいろ調べるから。そこから新薬や、解毒剤を作るんだ」

 アルクゥが小さくつぶやいた。

「……なんか可哀想だね」

 思わず口からこぼれ落ちた。

 モンスターだって、凶暴性の高いものばかりではない。

 ましてや、好きこのんで実験動物などになりたかったわけではないだろう。何らかの形で捕らえられ、生物研究所に連れて行かれたのだ。

「クラウドはやさしいね。確かに彼らの立場から見れば、俺たち人間のほうが、化け物なのかもな」

 ルーネスの声がやさしく降りてきた。

「……でも、市街地や普通の人を襲うのは……ダメ……だよね」

 夜の闇がいっそう濃くなった窓辺に目をやって、おれはザックスの無事を祈った。そして、セフィロスさんが未だ病棟に留められているのを幸いに思ったのだ。